午後を過ぎた時間。一度、医院は診察を終える。後は夕方からの診察となるのだが、その間が暇と言うわけでは
なくて。カルテの整理や、薬の在庫の確認など、色々と仕事がある。

「え、えっと…このデータは……」
「ルノー、それはこっちに」
「あ、うん。ショナ」
 ルノーがまとめたデータをショナがパソコンに入力してゆく。レントゲン技師が本業であるはずだが、彼が一番パソ
コンに強いため、彼の仕事になっている。

 彼にしてみれば、無機物の機械を相手にするほうが気が楽だと言うので、それでいいのかも知れない。
 そんな二人を見て、ユージィンは瞳に微かな笑みを浮かべる。元々、ルノーは頭がいいのにもかかわらず、事故から
自分を守るために兄が命を落としたことで内向的になってしまった。その結果、周囲になじめず、不登校になってしまった。

 ルノーの家庭教師をしていたことのあるユージィンが何か彼にできることがあるのだと言うことを示せないか…とここに
連れてきたのだ。その少し前に優秀だから…とカインがショナを連れてきていたこともあり、同じ年頃なら…という思いが
あったことも事実である。

 元々、頭のいい子供であったルノーは必要な知識を与え、自分に自身をつけさせると、予想以上の働きを示した。今は
ショナにパソコンを習っていたりもしている。ショナはあまり他人には関心を持たないほうだが、ルノーが懐いてくるので、
何かと面倒を見るようになってしまっていた。

「あ、あの。ユージィン、な、何?」
 自分を見つめるユージィンの視線に気づき、首を傾げるルノー。
「いえ…何でもないのですよ。ルノー、ここに来て良かったと思いますか?」
「え……?」
 突然のユージィンの言葉に戸惑うルノー。だが、すぐに笑顔になる。
「うん、だって。こ、ここには先生がいるから。兄様が生きてたら…あんな感じなんだろうなぁ……。そ、それに、アンジェ
リークは優しいし、お姉さんみたいだし。何よりも皆がいるから……。ユージィンがここに僕を連れてきてくれたこと、今
でも感謝してる……」

「ルノー……」
「ぼ…僕にもできることがここにはあるから。それに…楽しいよ。ずっと…こうしていられたらいいのに……」
 暗かった瞳の子供はもうここにはいない。
「ユ、ユージィンやショナは違うの?」
「私は……」
 返された言葉に今度はユージィンが戸惑う番。
「ここは他の所よりは好きだよ。好きなようにやれるからね」
 パソコンのデータをMOに落としながら、ショナは答える。
「結局…居心地がいいんだろうね……」
 他人ごとのように言うショナ。彼自身のことは彼自身が一番掴めていないのかも知れない。
「そ、それにね。僕、『二人』でいる先生とアンジェリークが好きなんだ。すごく…暖かいから……。アンジェリークといる時
の先生、すごく楽しそうだもの……」

「楽しそう……」
 うんうんと頷くルノーにショナも同意する。
「そうだね、『二人』だからだろうね」
「やっぱり、ショナもそう思う?」
 嬉しそうにはしゃぐルノー。その様子を見て、ユージィンはフッと笑みをこぼす。
「そうですね…そうかもしれませんね……」
 本当はルノーに言われるまでもなく、気づいていたこと。かつて彼の知っていた頃とは違う。暗い瞳をしていたあの頃とは
比べものにならないくらい、アリオスはよく笑うようになった。それは紛れもなく、アンジェリークの存在によるものだと。

(迷うことなどないのかも知れない……。私もこの空間を居心地よく思っているのだから……) 
 それぞれが自分らしく生きていられる。笑っていられる。その空間が確かにここにはある。その空間を崩す気にはとても
なれなくて。

「ショナ、ルノー。少し席を外しますので、続きをお願いしますね」
「うん」
 にっこりと頷くルノーにユージィンは笑顔を返すと、部屋を出る。それから、携帯電話を取り出すと、目的の相手にかけ
始める。その表情はどこかすがすがしかった。

珍しく、アリオスもアンジェも出てません。いいのか、私。でも、個人的に親衛隊の彼らを私なりに書いてみたいのですよ。
さて、ユージィンが電話した相手は誰でしょうね(^^;


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