スーパーのサービスタイムと言う名の戦場で、しっかりと戦利品をゲットしたアンジェ リークは
家路を急ぐ。今日は夜の診察もあるので、その前に軽いものをこしらえ、皆に
食べさせなければ
ならないのだ。
 元々はアリオスと二人でとっていたのだが、彼が今の医院を開いてからはそう
いうわけ
にもいかない。最初は全員が店屋物やコンビニの弁当などで、夜の診療の前に適当に
とって
いたのだが、店屋物やコンビニの弁当など。それでは栄養が偏る…と、アンジェリークが
作るようになってしまった。どうせ作るのなら人数が多いほうがまとめて作ってしまえる 分、経済
的なのである。皆も買いに行くより安いので、月々いくらかを渡して、作って
もらう事にしたのだ。
「ただいま〜」
 玄関の戸を開けて、とりあえず声をかける。返事がないのはわかってはいるが、習慣の ような
もの。鞄を適当におくと、戦利品を手に台所に向かう。この時間は大抵、リビング
で適当にくつろ
いでいる。

「お…お帰り。アンジェリーク……」
「ただいま、ルノー」
「あ…て、手伝うよ……」
「ありがとう」
 夕食の準備は大体ルノーが手伝ってくれる。と言っても、朝に下ごしらえをある程度は している
ので、彼が手伝うのは野菜を洗ったり、食器を並べたりとこんなもの。アンジェ
リークの邪魔になら
ない程度に。 

「あら…カーフェイは?」
 この時間ならリビングに寝転がり、雑誌を読んでいるはずことが多いのだ。よく見ると、 ショナも
ジョヴァンニもいない。

「あ、あの…カーフェイなら、急患が来て……。」
「で、ジョヴァンニがいなくて、ショナは?」
「そ、その、レントゲン……」
「そりゃそうね……」
 カーフェイの専門は外科である。ショナはレントゲン技師。急患が出たら、彼らに休息は ない。
「もしかしたら、また、例のあの人?」
「え…わかるの?」
 アンジェリークの言葉に驚いたような表情のショナ。アンジェリークは味付けをしながら、 軽く肩を
すくませる。

「だって…前も、その前もこの時間帯に運び込まれてたじゃない」
「げ…現場の仕事も大変だっていってたし……」
「単に集中力がないだけじゃないの……」
 味見をして、火を止める。ちょうど御飯も炊き終えた頃。
「そろそろ、悲鳴が聞こえてきそうね……」
「う…うん……」 
 エプロンを外して、椅子にかける。すると……
「痛え!」
 ここまで聞こえてくる悲鳴に、ルノーがビクッとする。アンジェリークり方は冷静である。 なんせ、
この患者には覚えがあって、慣れてしまっているから。ルノーのほうはいつ
までたっても慣れない
ようである。

「ったく……。いい年した男が情けない……」
「ご…ごめん……」
 条件反射に謝るルノーにアンジェリークは首を振る。
「違うよ、ルノーのことじゃないのよ。あの人のほうよ」
「で、でも…カーフェイって、けっこう手荒だし……」
「あの人はあれが楽しくて医者やってんだから、仕方ないのよ」
 身も蓋もない会話である。実際、事実なのではあるが。腕がいい外科医なのではあるが、 治療が
手荒のはもっぱらの事実。

「見に行ってみようっと。ルノーはどうする?」
「ぼ、僕はいい……」
「そう。じゃ、ゆっくりテレビでも見ててね。それから、ご飯食べようね」
「うん……」
 ぱたぱたと診察室のに向かう。相変わらす、悲鳴が聞こえてくる。
「カ、カーフェイ、もっと優しく……」
「痛いように治療してるんだ、我慢してろ」
 覗いてみると、カーフェイが手際よく、かつ、手荒に診療している様子。
「また、ウォルターなの……」
 勝手知ったる何とやらで診療室に入る。外科診療室ベッドの上に腰掛けているのは、とても 日に
焼けた若者である。彼の名はウォルター。土木作業員をしていて、よく怪我をするので、
カーフェイの
なじみの患者なのである。

「そうなんだよ、姐さん、こいつまた現場でドジ踏みやがって……。未だに現場監督の俺が 叱られる
ってこと、覚えやしねえ」

「ゲルハルト…私、あなたよりかなり年下のはずだけど……。その姐さんって呼び方……」
「だって…親分のご身内なら、姐さんでしょうが……」
「だから、そういう問題じゃなくて……」
 何と言ったらいいのか分からなくて、溜め息を吐くアンジェリーク。付き添いにいる男は ゲルハルトと
いう。現場監督をしている責任上、ウォルターが怪我をしたときの付き添いを
するのだ。また、彼自身も
肝臓が弱っていて、内科医のアリオスにかかっている。倒れた時、
アリオスの緊急の措置で事なきを
得たため、アリオスを『親分』と呼んで慕っている。その
ため、アンジェリークまで、姐さん扱いである。
「駄目だよ、アンジェ。脳味噌筋肉なんだから、理解できないんだよ」
「確かにな……」
 ジョヴァンニとカーフェイの容赦のない一言。と言え、別にこの二人と仲が悪いわけでは ない。よく
飲みにいっているらしいし。

「…ったく、うるせーな。仮眠も取れやしねぇ……」
 寝起きの不機嫌まじりの声でアリオスが入ってくる。診察がない時間は仮眠をとることも ある。
「親分、申し訳ない……」
「またおまえらかよ……」
 見知った顔にアリオスもあきれ顔である。
「別に怪我するのはおまえらの勝手だし、この時間なら、うちも時間外料金が取れるから、 かまわねぇ
がな。もう少し静かに治療を受けてくれ」

 とんでもない発言だが、誰も気にせず聞き流している。これでよくこの医院に患者が 来るのが不思議
なのであるが、多少、変人…いや、個性的な面々がいても、腕がいいし、
ルックスもいい若い連中がいる
この医院にはそれなりには繁盛しているのである。それとは
別に、夜間の急患でも対応できる患者は
面倒を診てくれるせいもあるのではあるが。

「そうだ、親分。こいつはともかく、いい店見つけたんですぜ」
「いい店?」
「いい酒がある店。親分も気に入りますぜ」
「そうか、じゃ、明日にでも」
 …こんな話題があるのも、この医院ならではのこと。だが、ここにアンジェリークがいる ことをすっかり
忘れた会話でもある。

「どこの世界に肝臓が悪い患者と飲みに行く医者がいるのよ!」
 パコーン! スリッパでのツッコミ。このタイミングはすばらしい。長年のつきあいの 賜物と言うべきか。
「どうして突っ込まれるのがわかってて、ああ言うんだろうね、ウチの先生は」
「さぁな……。おまえの女装と同じくらいに不可解だがな」
 ひどい言いようである。とても、雇主に対する発言とは思えない。 まぁ、遠慮する関係ではないと言えば
ないのだから仕方ない。

「それより。ごはんできたからね。片づけがすんだら、冷めないうちに食べに来てよ」
 そう言って、すたすたと去ってゆくアンジェリーク。この家の最高権力者の言葉に逆らう 者はいない。
「やっぱり…姐さんだと思うけど……」
 ショナが呟いたその一言に思わずうんうんと頷く一同であった。


ゲルハルトとウォルター登場です。でも、思うんだけど。このカップリングでパラレルしてる人間で、何人の人が
こんな設定で全員出そうとするんだろう…。いいけどね。私が楽しいんだから。

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