鮮やかな夕日が海をも染めてゆく。浜辺に腰を下ろし、潮風に二人あたりながら、海を見つめる。
「私ね…お医者様になりたいの」
「……そうか」
「ずっと…アリオスの背中を見てたからかな……。気がついたら、そう思ってた。駄目…かな……」
「バカ……」
ポンとアンジェリークの頭に手を載せる。
「一人で勝手に思い込むな。おまえの悪い癖…だ。元もと、おまえは頭は悪くない。学費も心配するな。それぐらいの稼ぎは
ある。どうしても気になるってんなら、身体で返せばいいだけの話、だろ?」
最後の口調は悪戯っぽく。ニヤリ…と、笑みを浮かべて。
「もう、アリオスったら!」
途端に真赤になって抗議するアンジェリークにアリオスは楽しげに笑う。そうなると、アンジェリー方はポカポカとアリオスに
殴りかかる。
「笑うな、バカ〜」
「バカとは何だ。バカ…とは」
グイッと腕を掴み、自分の腕の中にアンジェリークを閉じ込める。
「ア…アリオス……」
「バカ…冗談だ。気になるなら、出世払いでかまわんさ。だがな、迷ったときには、一番最初に俺に頼れ。俺に遠慮するのに、
何でカインには相談する」
「え……」
「学費の件とか…そう言う話は聞いた。カインは頼りにできて、俺は頼りにできないか?」
「そんなことない……。でも……」
「でも?」
チラリ…とアリオスの顔を覗いてみる。少し、怒ったような、機嫌が悪いような…そんな表情。
「ね…もしかしたら、アリオスに黙って、カインに相談してたこと、怒ってる?」
「さぁ…な……」
はぐらかすような言い方。けれど…それは……。
「何、笑ってやがる」
「内緒♪」
スルリ…とアリオスの腕の中を擦り抜けると、アンジェリークは立ち上がって、アリオスに笑顔を向ける。
「アリオス…私、頑張るから。アリオスにちゃんと肩を並べて歩けるようになる。だから、待っててね。ちゃんと私を見ててね!」
ピシッと自分に指をさして、高らかに宣言する少女にアリオスはクク…と笑いながら、立ち上がる。
「何がおかしいのよ」
その態度にムッとした顔で見上げてくるアンジェリークの顎を掴み、上向かせる。
「ア、アリオス?」
途端に焦ったような顔をするアンジェリーク。
「おまえはちゃんと俺と肩を並べて歩いてる。自分で気づいてないのか?」
「え……?」
戸惑った隙に掠めるように唇を奪う。
「〜〜!」
「そう言う女に自分で育っちまったからな。おまえこそ、ちゃんと俺を見てろよ。他の男なんかを見る必要はないからな。これ
だけいい男が目の前にいるし…な」
「……それは私のセリフ! 離れろって言われても、離れないんだから。そう…決めたんだから!」
「上出来」
満足のゆく答えを少女から引き出したことに期限をよくしたアリオスは、その唇にご褒美を与える。優しいキス…を。冷たい
潮風が二人の頬を掠めて行くのを感じながら……。
「帰るか……。風邪が直ったばかりの身体に潮風は良くない……」
「ん……」
前を歩くアリオスに着いていこうとするが、不意に何かを思いついたかのような笑顔を浮かべる。そして……。
「アリオス!」
ぎゅっとアリオスの腕に抱きつく。
「何だよ……。そんなに俺が好きなのか?」
「何となく、こうしてみたかったの」
「バカ……」
「バカでもいいもん。帰ろ♪」
絡めた腕を解かぬまま。暖かい腕の温もりが互いに伝わってくる。車に戻るまでの短い時間。それはとても短い時間の
ようで、悠久にも等しく二人には感じられた。
これは蛇足かも…。でも、前の話でいきなりエピローグに行くのもなんなので……。