アンジェリークの体をとりあえずはバスタオルで拭くと、カインが用意してくれた毛布に包まらせる。車の中は暖房が効いては
いるが、冷え切った体には足りないはずだ。

「大丈夫…か?」
「ん……」
 そう無理に笑顔を作って、頷いてはいるが、身体は正直でガタガタと震えている。雨の中にいた時は感覚が麻痺していたの
だろう。今、こうして暖かな車の中にいることで、急激に寒さを感じ始めているらしい。

(ったく……)
 アンジェリークに気づかれぬように舌打ちをする。苛立つのはアンジェリークにではなくて、ここまでになるのに気づいてやれ
なかった自分自身にだ。苛立つ心をぶつけるように、アリオスはアクセルを踏み込んだ。



 あらかじめ、携帯で連絡しておいたおかげで、家に戻ると、医院のスタッフが待ち構えていた。今は夜の診察も終えた時間。
片づけもあらかたすんでいたようだ。

「アンジェリーク!」
 毛布に包まれたアンジェリークを抱きかかえて、家に入ると、まず、ルノーが走ってくる。
「よ…良かった……。し、心配したんだよ……」
 泣きそうな顔をしている。傍らにいたユージィンが軽くたしなめるようにアンジェリークに告げる。
「あなたが出ていった時…気づかなかったって、自分を責めていたんですよ……」
「……ごめんね、ルノー。ごめんなさい…みんな……」
 軽率な自分の行動が及ぼす結果など考えていなかったから。
「それより…早く寝たら? 風邪、こじらせるよ」
 淡々と告げるショナだが、それはアンジェリークを気遣ってのこと。
「先生、今日の所は貸しにしておくから。今度また飲みにつれてってね」
「ボトル一本くらいはかまわないだろう?」
 アリオスがいない間に医院を守っていた二人の言葉に苦笑するしかない。
「とりあえず、今日は僕達は帰るから。アンジェのことは先生に任せて…さ」
「う…うん。そうだね……」
 ジョヴァンニの言葉に誰もが頷く。
「馬に蹴られたくないから…な」
 揶揄するようにカーフェイがチラリ…と二人を見る。心配げにアンジェリークを見つめるアリオス。
「じゃ、また、明日」
「それじゃ……」
「あ…あの、早く良くなってね……」
 めいめいに言葉をかけて去ってゆくと、アリオスとアンジェリークの二人だけになる。
「部屋…に戻るか」
「うん……」
 部屋まで連れていくと、アンジェリークを着替えさせるためにアリオスは一旦、部屋を出る。風呂に入れることも考えたが、
今のアンジェリークには無理な話である。幸い、ジョヴァンニがエアコンを入れておいてくれていたおかげで、部屋は暖かい。
アンジェリークはフラフラとおぼつかない手つきでタンスからパジャマなどの着替えを取り出して、着替え始める。

「アリオス…いいよ……」
 部屋の外のアリオスに声をかけると、ガチャ…とドアが開く。
「何か…食いたいもんはあるか?」
 ジョヴァンニが色々と買ってくれていたものが冷蔵庫にあるから…と告げるアリオスにアンジェリークは首を振る。
「アリオス、お風呂に入らなきゃ……。風邪、ひいちゃうわ……」
「……風邪ひきに言われたくはないが」
「ごめんなさい……」
「誰も責めてないだろうが……」
 ポンポンと頭を撫でてやる。
「おまえが寝たら、入るよ」
「ん……」
 頷いて、アンジェリークはベッドに入る。アリオスを見上げるその眼差しはいつもの勝ち気な色はなく、子供のような瞳。
「おやすみ……」
「ん……」
 軽く頭を撫でてから、明かりを落として、アリオスは部屋を出た。アンジェリークはぼんやりと天井を見上げる。
(私…ここにいてもいいのよね……)
 今日、一日があまりにも長すぎて。今もまだ、夢の中にいるようで。
(でも…ここが私の…私たちの家……。そう、アリオスは言ってくれたもの……)
 そっとアリオスが撫でてくれた髪に触れる。暖かかったてのひら。
「寒い……」
 エアコンは着いているし、暖かいベッドの中にいるのに。ぎゅっと自分自身を抱きしめる。そうでなければ、この寒さに耐えきれ
なかったから……。



 風呂から上がると、アリオスは氷水の入った洗面器とタオルを持って、アンジェリークの部屋に入る。
「アンジェ?」
 声をかけるが、返事はない。ベッドサイドのランプをつけると……。「おい……」
「……」
 寒さに震えているアンジェリークにアリオスは慌てて、額に手を当てる。さきほどは気づかなかったが、かなりの熱だ。
「アリオス……?」
 潤んだ瞳で見上げてくる。不安げな瞳。
「寒いのなら…毛布をもう一枚出すから」
 そう言って、アリオスが立ち去ろうと駿河、アンジェリークのアリオスの服の裾をつかむ。
「アンジェ……?」
「行っちゃ嫌……。傍にいて……」
 微かな声。震えている声は寒さだけではなくて。
「……バカ」
 軽く微苦笑する。そして、アンジェリークから蒲団を取り上げる。
「アリオス?」
「温めてやるよ……」
 そう言って、アンジェリークのベッドに潜り込む。自分よりも遙かに小さな身体を抱きしめてやると、すがるように抱きついて
くる。

「あったかぁい……」
 安心したかのようにほっと溜め息を吐くアンジェリーク。
「そうか?」
「うん……」
 髪を背中を優しく撫でてやる。その仕種に安心したように微笑する。いつしかアンジェリークが眠りに着くと、アリオスはそっと
その額に口づけを落とす。眠りの中でも守り続けるかのように……。


ここで手を出すと期待されてた方、すみません。でもさぁ……。まだ、互いの気持ち、言ってないんだよ(笑)。問題あるじゃない。
しかも、ここは表の部屋だしね。

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