空に一閃する光。そして、数秒後に聞こえてくる号音。
「十秒……。近いことは近いかな」
冷静に呟くショナ。
「先生、大丈夫かなぁ……」
不安げに窓の外を見つめるルノー。車で出ていったアリオスのことを心配して。
「おや、ちびさんたちは雷が怖くないんだ?」
からかうように言うジョヴァンニにショナは視線をパソコンに向けたまま。
「怖いのは雷でデータが飛ぶことだから」
「……そう」
面白くもない返答にジョヴァンニは肩を竦める。
「ルノーは?」
「ぼ、僕も大丈夫……」
「ふぅん……」
つまらなさそうな顔をするジョヴァンニ。
「野郎が雷に怯えてんのを見て、楽しいか?」
カーフェイの言葉にジョヴァンニはにっこり笑う。
「そりゃ、からかうネタになるからね」
「……あまりすぎると、許しませんけどね」
ボソリ…とユージィンが呟く。どことなく、微妙な雰囲気が流れる。
「あ、あの。そろそろ、夜の診療の準備をしなきゃ……」
気がつけば、もう夕方に近い時間。
「そうだな」
こうなった場合、口実を見つけて、空気を変えるのがベストである。
「しかし、先生、遅いね」
出かけてから、二時間近く立っている。車で出かけたのだから、そろそろ戻ってきてもいいはずなのに。
「この雨だからな……。道が混んでるんじゃないのか?」
「診療時間までに戻ってこられればいいんですが……」
ガタン! 玄関の方で物音が聞こえる。
「も、戻ってきたのかな?」
ルノーが玄関に走って行く。だが、そこには誰もいない。
「誰もいない……。空耳……?」
微かに玄関が濡れていることを不思議に思いながらも、ルノーはその場を後にした。
雨のために道が渋滞していたため、アリオスが戻ってこられたのは夕方とも言える時間帯だった。
「ちっ……」
雷はおさまったが、まだ、雨は上がらない。ニュースでは今夜までは雨はあがらないだろうとのことだった。
ガレージに車を置くと、急いで、車を出て、家に入る。
「お、お帰りなさい。先生……」
「お帰りなさい。ひどい雨でしたが、やはり渋滞でしたか?」
出迎えてくれたのはルノーとユージィン。
「アンジェは?」
「あ、あの……。プリンを持っていったら、食べたら、また寝るからって……」
「そっか……」
ほっと、溜め息を吐くと、アリオスはアンジェリークの部屋に足を向けようとする。
「あ…先生」
「何だ?」
「私もルノーも…ここが好きです。ジョヴァンニではありませんが、お二人が二人でいるところが好きです。私は今のあなたがあなた
らしいと思いますから」
「……世話をかけたな」
「いえ……」
彼らしくて、らしくない言い方にユージィンは微笑する。彼が彼であることがユージィンの望みだから。
アンジェリークの部屋の前に来ると、コホンと一つ咳払いをする。らしくない戸惑いが彼の中にある。
「アンジェ、起きてるか?」
ノックの前に声をかけてみる。返事はない。寝てるのかと思うアリオスであるが、微かにドアが開いていて。
「アンジェ、入るぞ」
声を駆けても返事がない。数秒待って、アリオスは部屋に入った。
「おい…冗談だろう?」
一瞬、戸惑いながらも、すぐに正気に戻る。床に落ちているタオルケット。だが、そこにはあるべき人物の姿がない。
「アンジェ……!」
慌てて、自分の部屋に向かう。アリオスが不在でどうしても我慢できない時はアリオスの部屋に潜り込んでいた。
「いない……」
だが、そこにも姿はない。書斎やキッチンなどにも。
「先生、何探してんの?」
「アンジェを見てないか?」
その言葉にジョヴァンニは目を丸くする。
「あの子、寝てたんじゃなかったの? 僕らがいるとこにには来てないよ」
「そうか……」
アンジェリークが雷を怖がると言うことを彼らは知らない。意地でも知られたくない…と言い張っていた。
「あいつ、外に出ていかなかったか?」
「……いないの?」
まだ熱が下がっていなかったはずなのに。さすがにジョヴァンニも驚きを隠せない。だが、すぐにハッとした表情になる。
「ちょっと待って。確か、先生が帰ってくる前にルノーが玄関で物音を聞いたんだ。でも、見に行ったら、誰もいなかったって……」
「何時頃だ……?」
「って……。雷が収まるか収まらないくらいの時間だったと思う……」
「そうか……」
恐らくは不安を抱えたままで、アリオスの部屋にも潜り込めずに、外に出たのだろう。風邪をひいているのにも関わらず。
「出かけてくる」
「先生?」
「あの馬鹿、風邪をこじらせかねないからな。ユージィン」
薬の在庫を調べているはずのユージィンを呼ぶ。
「何か?」
「アンジェがいない。探しに言ってくる。カインに連絡をしてくれ。あいつのところに転がり込むかも知れないからな」
「アンジェが……。わかりました。内科は臨時休業にしておきます。携帯に連絡を入れますね」
「ああ……」
ジャケットと羽織るとアリオスは車に向かおうとする。
「待てよ、先生」
「カーフェイ……。用が無いなら、声をかけるな」
「苛立ってるのはわかるけどな。ほら」
どさっと投げつけられたのはバスタオルが数枚入ったバッグ。
「濡れねずみを拾って来るなら、それぐらいの準備はいるだろ?」
「……まったく、人のいい連中を雇ったもんだな」
「それはアンタの人徳じゃないことは保障してやるよ」
「ああ」
玄関を出て、ガレージに向かうアリオスを見送ると、カーフェイは煙草に火を付ける。
「らしくないこと…だよな。俺にしても」
この借りは次にボトル一本で返してもらおう…と言うことにして、らしくない自分をすり替えることにするカーフェイなのであった。
さて、アンジェは何処に行ったのか……。まだ、続くんか…とか、言われそうですけど。このシーンを書かないと、書きたいシーンに
行けないんですもの……。