医院の開業時間前は、それぞれの準備をしてたり、悠々としたり、個人個人おのおのである。その中で、ユージィンは
アンジェリークの欠席を学校に連絡してした。
「すみません…二年生のアンジェリークコレットの家のものですが、風邪を引いておりまして、欠席の連絡を……」
丁寧な口調はこの委員のメンバーの中でも一番なのだ。
「中身はともかく、外面がいいのも特技と言えば、特技なんだろうな……」
ユージィンの電話での応対に対して、煙草を吸いながらのカーフェイの言葉にルノーはキョトンとしている。
「ど、どうして? ユージィンはいつも優しいよ」
「そりゃ、おまえにだけはな」
「?」
訳が判らないに首を傾げるばかりのルノーは小動物のようで。ユージィンが猫っ可愛がりするのは判る気がする。あく
までも、気がするだけだが。
「先生。連絡はしておきました。お大事に…だそうです」
「そうか。じゃ、この薬を出してくれ」
メモに書かれているのはれっきとした処方箋。
「わかりました」
メモを見て、ユージィンは薬を置いてある部屋に向かう。
「しかし、あいつが風邪って……。風邪の菌の方が逃げ出すと思ってたんだがな……」
「ひ、ひどいよ、カーフェイ……。あ、アンジェ、すごくしんどそうだったし……」
あまりの物言いに流石に抗議をしてしまう。
「そうだね…元気があり溢れてるしね……」
パソコンに向かい合いながら、ボソッと呟くショナ。風邪で寝てる病人にあまりではないかと、ルノーでなくても思って
しまう。
「そう言えば、ジョヴァンニは?」
いつもなら、とっくに来ていて、完璧なメイクが整っているはずの、女装看護士の姿がないことに気づくカーフェイ。
「さ、さぁ。で、出かけてくるって……」
ルノーも首を傾げる。朝、自分がいれたお茶を飲むと、出かけると言って、それっきりなのだ。
「も、もうすぐ時間だし……。ぼ、僕、見てくる……」
そう言って、ルノーが出ていこうとすると……。
「うわっっ!」
ガタンと、何か重いものが落ちた音。
「びっくりした……。ルノー、飛び出すのはやめなよ。僕の綺麗な身体に傷がつくじゃないか」
「ご、ごめん……。ジョヴァンニ……」
反射的に謝ってしまうルノー。迎えに行こうとした彼の立場はないらしい。
「ま、いいけど」
そう言いながら、床に落ちたものを拾い上げる。
「買い物…行ってきたんだ」
手にしているコンビニの袋に気づき、ショナが指摘すると、ジョヴァンニは袋からいろいろと取り出す。
「うん。風邪引きさんにね」
そう言いながら、レシートを取り出して、ニッコリとアリオスに差し出す。
「先生、よろしくね♪」
「……」
その言葉にアリオスは無言で財布を取り出して、紙幣を差し出す。
「釣りはいい」
「どうも」
金額を受け取ると、自分の財布にしまう。
「な、何を買ってきたの?」
興味深そうにルノーが袋をのぞき込んでいる。
「風邪と言えば、これでしょ」
そう言いながら、テーブルに置くのは桃の缶詰めである。
「そう言うもんか?」
「うちはそうだった」
「私の家もです」
「う、うちはプリン……」
「……ヨーグルト」
めいめいが好き勝手なものを言い出し始める。それぞれに家庭の何かがあるらしい。
「先生、アンジェ、咳はしてたっけ?」
「いや……」
「じゃ、これもいいよね」
袋から取り出されたのはアイスクリーム。
「乳製品だから咳があるなら、駄目だけど。熱があるなら、喉に気持ち良い方がいいしね」
「意外な一面があったもんだ……」
女装だけじゃなかったのか…と、妙な関心をするカーフェイ。
「あの…プリンは駄目?」
おずおずと尋ねてくるルノーにジョヴァンニは噴き出してしまう。
「ジョヴァンニ。まじめに答えてあげてください」
たしなめるユージィンにジョヴァンニは肩を竦める。
「わかってるよ。ただ、ルノーが可愛いなぁって思ってさ」
「ルノーが可愛いのは当然じゃないですか」
きっぱりと言い切ってしまう彼に対し、何だかなぁとカーフェイは思ってしまう。
「ま、謝っとくよ、ルノー。プリンもいいと思うよ。駅前のケーキ屋のヤツ。喜ぶと思うけど」
「う…うん」
嬉しそうに頷くルノー。
「じゃ、先生。アンジェは部屋だね。食べさせたら、着替えるから。ちょっとの間、よろしく」
てきぱきと食器を出して、桃缶を器に移し、カップのアイスクリームと薬と水差しとコップ共にトレイに載せると、アンジェ
リークの部屋に向かった。
「アンジェ、起きてる?」
二、三度ノックをするが、返事はない。
「入るよ」
ドアノブを回すと、鍵は開いている。ガチャリとドアを開けると、ベッドで眠っているらしいアンジェリークが目に入る。
「寝ちゃってるのかな……」
声をかけても返事がない。机の上にと例を載せようとして、不意にジョヴァンニの手が止まる。
「写真……?」
手にした写真の日付は古い。中に写ってる人物を見て、ジョヴァンニは息を呑む。
「何だって…こんなものをアンジェが……?」
眠っているアンジェリークの顔をのぞき込む。涙の跡が残っている。泣き疲れて、眠ったしまったのだろう。
(様子がおかしいのは…これってわけか……)
自分たちに接触してきたあの男がアンジェリークに接触しないはずがない。いや、自分たちよりも、アンジェリークに揺さ
ぶりをかける方が効果的だと判断したのだろう。
ジョヴァンニはポケットの中に写真を入れてしまうと、アンジェリークの肩を揺さぶる。
「アンジェ……」
「ン……」
いくつか瞬きをして、目を擦りながらアンジェリークは目を開ける。
「ジョヴァンニ……?」
「薬、ユージィンが出してくれたから。食欲はある?」
「ン…少しなら……」
「じゃ、机の上に置いてあるから。食べたいものだけ食べたら、薬を飲んで寝てなよ」
「ありがとう……」
素直なその言葉に少しだけ戸惑った顔を見せて、男にすらも滅多に見せない極上の笑顔を返してやる。
「いいよ、たまにはこういうのも楽しいし♪」
手を振りながら、部屋を出てゆくジョヴァンニ。彼が出ていくと、アンジェリークはのろのろと起き上がり、机に置かれて
いる桃缶とアイスクリームに目を細める。
「美味しい……」
熱のある身体には程よい冷たさで。すっと、入ってゆく。一通り食べ終わると、薬を飲む。
「あとで…持っていこうっと……」
今はおとなしく寝ている方が迷惑をかけない…そう思い、ベッドに再び潜り込む。薬がすぐに効いたのか…眠りに落ちる
のは早かった。
アンジェリークの部屋を出て、ジョヴァンニは溜め息を吐く。ポケットの中に入っている写真はどう見ても以前のアリオス。
(話には聞いてたけどさ…似すぎだよね……。あの子が混乱するはずだよ……)
噂でしか知らないことだから、憶測で判断はしたくないとは思う。
(どうして、傍らから見てちゃんとあるべき二人なのに、そのことに気づかないんだろう……)
ジョヴァンニにはそれが不思議でならない。不安に陥るのは、それがちゃんと二人の中で確立していないから。傍から
見ていて、ちゃんと“二人”であるのに。
(僕の柄じゃないなぁ……)
自分自身苦笑するしかない。どちらかと言うと、引っ掻き回す方が得意だし、好みなのだ。だが、自分にとっても居心地が
いい場所を自ら捨てるほど、愚かなわけがない。
「これは“貸し”にできるかな」
ポンと手を打って、クスクス笑う。そうすることで、一人納得するジョヴァンニであった。
本当にガラじゃないよな、ジョヴァンニ……。もういいの。オフィシャルが怖くて、パラレルはできないわ。(開き直ってどうする、私。)
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