部屋につれていかれると、ベッドに腰掛けるように言われる。
「口、開けてみろ」
言われるままにアンジェリークが口を開けると、医療用のライトを照らされ、喉の奥をのぞかれる。
「扁桃腺が腫れてるな……。咳と吐き気はないな?」
「うん」
「後で、薬を持ってこさせる。おとなしく、寝てろ」
「……ごめんなさい」
俯くアンジェリークに、やはり何かおかしいとアリオスは思う。いつもと比べ、殊勝すぎる。熱のせいにしても、おか
しすぎる。
「アンジェ、おまえ……」
「ね、アリオス。私、大丈夫だから。朝ごはん、食べたら、洗い場につけておいてね、後で洗うから」
アリオスが何か言おうとしても、アンジェリークは無理矢理な笑顔で封じ込めてしまう。痛々しいくらいの無理、だ。
「莫迦…病人はおとなしく寝てろ」
強情なアンジェリークに溜め息を吐いて、アリオスはアンジェリークの額をツンとつつく。
「うん……」
コクリと頷く様子は、それでも小さな子供のようで。クシャクシャと頭を撫でると、くすぐったそうに肩を竦める。
「ちゃんと、寝てろよ」
そう言うと、アリオスは部屋を出てゆく。アリオスが出たのを確認すると、アンジェリークは制服を脱いで、パジャマ
がわりの大きめのTシャツとスパッツに着替える。
(アリオスは…叱るときも優しいんだよね……)
出会った時から、そうだった。叱るときは本気で叱る、それが自分を本当に思ってくれてのことと気づくのには、まだ
子供だった頃だったから、時間がかかって。よく喧嘩をしては、カインのところに家出をすると泣きついた。
(でも…それは『私』だったからなの? それとも……)
昨日キーファーから渡された写真を取り出す。アンジェリークの知らないアリオスがそこにいる。そして、自分によく
似た、彼の恋人が……。
(そしたら、私、かなうわけがない……)
涙がこぼれそうになるのを必死で拭う。そして、今の自分に思いに愕然とする。
(かなうわけがないって…どうして、そう思っちゃうの……? どうして、それが悲しいの……?)
自分自身に問いかけてみる。昨日は判らなかったあの涙の意味が見えてきそうで、見えるのが怖くて……。
(私……?)
アリオスは大切な家族。それ以外の何ものでもない。アンジェリークにかけがえのない、手離せない場所を作って
くれた……。それは、他の誰でもなく、アリオスだから……。
(アリオスだから? アリオスじゃなかったら……?)
胸が痛い。気づかなかった痛みの意味が、形となる。そして…涙がまた溢れ出す。
「私…好きなの……?」
あやふやな想いが呟くことで形となる。そして、また胸の痛みを感じて。知ってしまっても、どうにもならないと判って
いるのに。
(ああ、そうなんだ……)
ポタリ…と写真に涙がこぼれる。自分の知らないアリオスの時間。幸せ。自分によく似た彼の恋人が彼にもたらせた
もの。
(アリオスの大事な人……。『私』じゃない人……)
写真を机の上に置いて、アンジェリークはベッドに潜り込む。熱が出て苦しい身体。だが、それ以上に胸が苦しくて。
息ができなくて。涙が止まらなくて。ひたすら、声を出さずに涙を流し続ける。
どうしようもない痛みだけを抱えて……。
今回、短いけど、話の流れ的にそうしないと…。やっと、アンジェが自覚しましたね。って言うか、やっと、カップリングものらしく
なってきたのかな。ここまで行くのにどんだけ時間使ってんだか…。
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