そんな愛しさに溢れた感情を抱いたままで、車に乗って、自宅にたどり着いて。愛しさがあふれ出すのを抑えるのには限度があった。むしろ、車の中で溢れさせなかった自分をほめてやりたい気分だった。
「ん……」
 自宅のドアを施錠してしまうと、キッチンに向かおうとしたむぎを捕まえて、深い口付けを送る。
「ん〜」
 突然のことに暴れだそうとしても、依織の力には叶うはずがなく。口内に入り込んできた依織の舌に蹂躙され、だんだんと力が抜けてくる。もちろん、それを見逃すはずの依織ではなく、むぎの足に自分の足を割りいれて、微妙に動かしてゆく。
「や、なんで……」
「君が愛しくてたまらないんだ……。君があんなに可愛いことを言ってくれたんだ。押さえが聞くはずがないだろう」
「ん、ふぅ……!」
 息をつかせぬ激しい口づけにただ翻弄されていく。持っていたスーパーの袋が足元に落ちて、ガサッと音を立てる。
「だ、だめ……。ご飯、作らなきゃ……」
「夕食にはまだ早いね? 君のことだから、メインの下ごしらえはちゃんとしているはずだろう?」
 家政婦時代からの段取りのよさは十分に把握している。身じろぐむぎを押さえつける依織にむぎは必死に訴えかける。
「や、なの。手、抜きたくない……。依織くんとそのするのは嫌じゃないけど、した後はけだるいから……。ちゃんとできなくなっちゃう……」
 泣きそうな瞳で見上げてくる。そんなむぎの額に自分の額をコツンと当てて、依織は囁きかける。
「ちゃんとじゃなくてもいいだろう? たまには手を抜くことを覚えなきゃ」
「だめ……。恋人だったら、それでいいかもしれないけど……。今日のあたしは依織くんの奥さんだもん! 奥さんだから、ちゃんとしたいの……」
 これだけは譲れないのだ、と。必死に訴えるむぎの主張の可愛らしさに依織は苦笑して、熱を抑えることにする。ここでこのまま…と言うことも考えては見たが、むぎの機嫌を損ねてしまう。
「わかったよ、奥さん……」
 鳴きそうなむぎの瞳にキスをして、依織はむぎを解放してやるのであった。



 そして、無事に夕食の時間と相成った。テーブルの上にはむぎの手作りの和食ばかりが並んでいた。
「美味しそうだね」
「うん。だって、依織くんに喜んでもらいたくて、頑張ったんだもん。あのね、小さいけど、ケーキもあるの。二人で食べられる大きさのデコレーションケーキ」
「それは楽しみだね〜」
「たくさん食べてね」
「もちろん」
 家政婦の時にもむぎは和食を作ることが多かった。それは雇い主の一哉が和食好みだったからと言うのもあるが、依織が恋人になってからの和食は依織の好きなものが必ず一品は食卓に並んだ。周囲にはわからないように、でも庵だけ特別なのだとでも言うように。そんな可愛いことをしてくれた恋人に愛しさが増したことを思い出して、依織はクスリ、と笑う。
「どうしたの?」
「いや、美味しそうだなと思って」
「そう? さめないうちにどうぞ」
 むぎに言われるままに依織はむぎのご馳走を堪能するのであった。


 食後のデザートのケーキとコーヒーを終えると、むぎは後片付けのためにキッチンにこもった。手伝おうと依織が申し出たのだが、むぎは頑として、今日は依織の誕生日だから何もしなくてもいいと譲らなかったのだ。それなので、一人寂しくリビングで本を読んでいる。だが、不意に眠気が襲ってきた。むぎの作ってくれたご馳走で心とおなかが満たされたのと、むぎがここにいると言う安心感から、ゆったりと忍び寄る睡魔に身を任せた。


「依織くん……」
 少し高いむぎのかわいらしい声に意識が浮上する。目を開けると、困ったように笑うむぎのすがた。
「こんなところで寝たら、体が痛くなっちゃうよ? ベッドで寝よう?」
 ね?と依織を起こそうとするその手を掴むと、依織は衝動的に引き寄せて、その唇を塞いだ。
「んぅ?」
 いきなりの依織の行動に抗議をしようとしても、言葉はすべて依織に飲み込まれてしまう。もがいてみれば見るほど、強く押さえつけられ、激しい口付けを与えられると言うこともあり、むぎの体からは抵抗する力が失われてしまう。
「は、ぁ……」
 ようやく唇が離れて時にはぼんやりと潤んだ瞳で依織を見つめる。
「可愛いね、奥さん」
 スルリ…と意図を持って、依織の手がむぎの背中をなぜると、むぎの体がビクンッと跳ねる。
「や、寝ぼけてるの……?」
「寝ぼけてないよ? デザートの締めをいただこうかと?」
「デザートって……。さっき、ケーキ……」
「うん。ケーキは美味しかったけど。一番美味しいのは君だろう?」
 そう言うと、依織はむぎの唇を再び塞ぎながら、ミニスカートから覗く白い太ももに手を伸ばす。その意図を察したむぎが抗おうとするが、先ほどのキスで体の力をすべて依織に奪い取られ、逆らうこともできない。
「夕食は終えたし、後片付けも終えたんだ。僕はここまで我慢したんだから、いいだろう?」
 蠱惑的な声に吐息ごと囁かれてしまえば、むぎに逆らうすべなどあるはずがなく。恥ずかしげにうつむいて頷く姿に依織は満足そうに笑った。

いおりん……。ま、まぁ。やっと、裏部屋にふさわしい内容に戻ったと言うことでw


<Back> <Next> <Under the home>