| そして、次には皇の住むマンションへ。 「誕生日おめでとう。依織」 「ああ。ありがとう」 「これ、鈴原と使ってくれ」 皇が渡したのはお香のセットだった。花を型取った可愛らしい香炉といくつかのお香が入っている。 「なんで、あたしと一緒に?」 「……え? これを機会に一緒に暮らすんじゃなかったのか? その祝いで赤飯を炊いたのかと……」 「依織くん〜」 いったい皇に何を吹き込んだのかと、問い詰めようと躍起になるむぎに依織は涼しげな顔で言った。 「むぎが一日限定で俺の奥さんになるって話していたら、そういう流れになったんだよ。俺はいつでも大歓迎だけどね」 「もう〜」 真っ赤な顔でぽかぽかと可愛らしく依織をたたくむぎの姿に、依織は幸福そうな顔で。皇は砂を吐きたい気分に陥る。依織の誕生日でなければ、渡すものを渡したんだから、とっとと帰ってくれと言いたい気分だ。 「あ、俺、そろそろ行くから。赤飯、ありがとう」 「う〜。本当に持っていくの?」 「本当なら、鈴原が持っていくのがいいと思うんだがな」 「え〜。だって、あたし……」 まだ自分はただの恋人だ。依織の実家に行くなど、おこがましい気がする。そんなむぎに皇は苦笑する。 「あんた、まだ自分がどれだけすごいことしたのかわかってないみたいなんだな……。まぁ、下手にしゃしゃり出たりする女よりはいいと思うけど。とりあえず、ありがたくいただくから」 「皇くん、お赤飯好きなの?」 「……好きっていうか、腹持ちがいいからな。うまいのなら、もちろん好きだけど」 どういう基準なのかはよくわからないと、むぎは首を傾げるしかない。 「じゃあ、皇くんのお誕生日にも炊こうか?」 「……いや、それはいい。あんたが本当に依織の嫁になってからにしてくれ」 ちらりと兄に視線を向けると、まだ涼しげな笑顔ですんでいる。まだ、これは許容範囲らしいことに皇は安堵のため息をついた。 皇を実家に送ろうかと依織は申し出たが、それだけは勘弁してくれと固辞され、軽くなった荷物と共にドライ無デートと相成った。 「お昼はどうする? 用意していたかな?」 「ううん。何か作るつもりではいたけど。お赤飯っておなかが結構持つから、軽いものにしようかなって思ってたの。その代わり、夜は頑張るから!」 「それは楽しみだ」 「うん、楽しみにしていて。その代わりに帰りにはスーパーに寄ってね?」 「はいはい、奥さん」 お姫様呼びではなく、奥さん呼びがかなり気に入っているのか、依織は楽しそうにむぎをそう呼ぶ。そのことが面映くもあり、嬉しくもあって。むぎは顔が緩むのをとめられなかった。 新しくできたショッピングモールに出かけて、秋ものの服を見たり、新色の化粧品を依織に選んでもらったり(買ってくれようとするのを、むぎが必死で押しとどめたのは言うまでもない)。それから、依織お勧めのカフェで軽食を取って。 「なんか、普通のデートみたい。一日奥さんなのにね」 「いいじゃないかな? 僕は結婚しても恋人気分を味わいたいのだし。それに、僕の仕事の関係で可愛い奥さんに寂しい思いをさせてしまうことも多いからね」 「あたし、大丈夫だよ? 寂しくないって言うのはうそになるけど……。でも、依織くんが帰ってきてくれるのがあたしのところだと思うと、それも我慢できるから」 「我慢できないのは僕なんだけどね……。僕がいない間に君が誰かに誘惑されていないかって、気が気でない……」 「誘惑されません。依織くんこそ、そんなに格好いいんだもん。みんな依織くんのこと気になるんじゃないかなぁ……」 「こんな可愛い奥さんがいるのに?」 そっと、薬指のリングに触れられて、むぎは真っ赤になるしかなかった。 カフェを出たら、次はスーパーへと向かう。てきぱきと目的のものを買ってかごに入れていくむぎの姿に依織は幸福そうに笑う。 「依織くん、食べたいものある?」 「いいよ。今日は君にお任せだから」 「うん、腕によりをかけるからね♪」 二人でこうして食材の買いだしに出ることは初めてではない。一哉の家で同居していた時から、車の出せる依織がむぎの足になってやっていたからだ。 「ふふふ」 「どうしたのかな、奥さん?」 「こうやって、依織くんとお買い物するのって初めてじゃないけどさ。あの家にいた頃って、皆の文のこと考えて買い物していたけど、こうやってい織くんのことだけを考えてお買い物するのって、ものすごく嬉しいなぁって……」 こんなことを言ってくれるおまけまでついて。ただ愛しさが増すばかりなのであった。 |
皇くん、いおりんのお誕生日だからと我慢してます。お買い物ですら、幸せですよ、この二人w
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