| 依織がシャワーを浴びたころには朝食が出来上がっていた。お赤飯と鰆の西京焼、お吸い物、小松菜の白和えといったところである。 「お赤飯は蒸篭で蒸して作ったんだね」 蒸篭の中にはホカホカとできたてのお赤飯。昨日、むぎが持ってきた荷物の中に入っていた。 「うん。鈴原家はこうやって作るんだもん。炊飯器で炊けるって言うけど、蒸篭でちゃんと蒸したお赤飯には勝てないって言うか。もち米だけのお赤飯なんだよ」 「うん。そうだね」 ご飯粒が小さめなのと、ピンと固めにつややかに炊かれているのを見て、それを見て取れてしまう。 「お赤飯はほら、以前皇が君に持ってきた和菓子のあの店でいつも作らせていたからね。ちゃんとこういうものが炊けるって言うのがすごいと思うよ?」 「そうかなぁ。じゃあ、あたしのお母さんはすごかったんだ。あたしや、お姉ちゃん、お父さんの誕生日にはいつも炊いてくれていたの。結婚記念日にもね。後、入学式とか卒業式にも。お母さんの誕生日にはあたしとおねえちゃんで炊いたら、すごく喜んでくれて。あたし、それだけで嬉しかった」 「むぎ……」 家族のことを思い出させてしまったと後悔する依織にむぎはゆっくりと首を振る。 「あのね、嬉しいんだよ? だって、家族のためにお赤飯を炊けるんだもん。当分、炊くことなんてできないと思っていたから……。蒸篭だって喜んでる」 年代ものの蒸篭はお世辞にもぴかぴかとは言えないけれど、大事に使われてきたと言うことはよくわかる。 「だから、味わって食べてね。あなた」 「もちろん、奥さん。朝から、こんなすばらしいご馳走を賜るなんて思わなかった……」 「ふふふ〜」 軽いフレンチキスを何度か交わして、さめないうちに朝ごはんをいただく。 「やっぱり、美味しいよ」 「ありがとう〜」 むぎの作ったお赤飯は申し分なく美味しかった。多分、いつも作ってもらっている業者のものよりもずっと。 「あのね。お赤飯のおすそ分けしたいんだけどいい?」 「お裾分け?」 朝食後にそんなことを言い出したむぎに依織は首を傾げる。確かに蒸篭いっぱいのご飯は二人で三食分に食べるのには多い。 「うん。せっかく炊いたんだし。夏実とか、一哉君たちにも」 「……夏実ちゃんはいいけど、一哉たちにはもったいなくて、譲れないな」 何が楽しくて、依織のために炊いたお赤飯をかつてのライバルたちに食べさせなければいけないのか。だったら…と考えて、 それがいい考えであることに気づいて、依織はそれはそれは極上の笑みを浮かべた。 「じゃあ、皇に持っていってもらおう」 「え? 皇くんに?」 「実家に顔を出すといっているからね。連絡を入れておくから、それを食べてもらおう」 「え〜。そんな。失礼じゃない?」 いくらなんでも…とは思う。それなら、ちゃんとおかずも作っておいたのに…と、慌てふためくむぎにかまわず、依織はむぎが用意していた重箱を取り出し、「これに詰めるのかい?」と聞いて。慌てて、むぎが自分がやるからと、残ったお赤飯を重箱に詰めることになってしまった。 重箱にお赤飯を詰めると、依織の車でおすそ分け周りと言う名のドライブと相成った。 「すず、ありがとう〜。楽しみにしてたんだ〜」 「えへへ〜。夏実、好きだもんね」 ありがたく重箱を受け取ってくれる夏実にむぎもニコニコと。 「あ、そうそう。これ、松川さんに誕生日プレゼントです。すずと一緒にどうぞ〜」 夏実が差し出したのは紅茶と焼き菓子の詰め合わせをバスケットにいれてラッピングしたものだった。 「ありがとう、夏実ちゃん」 「賄賂です。本当に奥さんになった時にすずを時々貸してもらうために」 にっこりと言う夏実にむぎは真っ赤になる。 「な、夏実。何てこと言うのよ〜」 「だって、松川さんは親の許可なくても結婚できる年だし? 問題は後見人の御堂さんでしょ? あ、一宮さんも何か思想だし。羽倉さんはちゃんと祝福してくれるとは思いますが〜」 むぎの結婚にかかわる夏実のラ・プリンス観はこういうものらしい。 「すずがこうしてお赤飯を炊ける機会をもっと増やしてくださいね」 「もちろんだよ。一ダースだって足りないくらいには」 「依織くん〜」 とんでもないことをこれ以上言い出されては困ると、むぎは依織を引きずるように丘崎邸を後にする。 「むぎちゃん、溺愛されまくりだなぁ……」 その様子を見てしまった夏実の兄がポツリと呟く。 「でも、幸せそうでしょ?」 「ああ、よかったな……」 そんな会話がなされていたことはもちろんむぎも依織にもあずかり知らぬところであった。 |
蒸篭で蒸すお赤飯は美味しいですよ〜。むぎたんに作って欲しいなぁとお持って書きましたw
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