「じゃあ、買い物に行こうか?」
「え?」
 一日奥さんの会話から、買い物に行こうという流れの糸がわからず、むぎはきょとんとした顔になる。
「君が一日とはいえ、僕の奥さんになってくれる日のために色々と新調しないと。流石に新居は今からすぐには用意できないし。この部屋は僕の趣味で選んだインテリアだから。奥さんと選んだ品じゃないと意味がないだろう?」
「一日だけ奥さんって話だよね? もったいないよ、そんなの!」
 ブンブンとむぎは首を振る。一日だけの話と言うのに、そんなことをしたら申し訳なさが先に立ち、結婚はまだないにしても、ずるずると同姓に持っていかれそうな気がして怖い。
「どうして? 僕は愛する奥さんのために…と、色々と用意したいのに?」
 少し声のトーンを落とし、切なそうに言われれば、むぎとしてはうっとなる。そんな顔をさせたいわけではなくて。ただ、一日だけのためにもったいないとかそういう気持ちからなのだ。
「だって、この家のインテリアとかは素敵だし。あたし、変えたくないなぁって思うの。だったら、ほら。おそろいのパジャマとか、スリッパとかなら、そういうのはどうかな?」
 思いつくあたりの妥協点をむぎは提案する。依織の家に遊びに来て、そのままなし崩しにお泊りになることが多いので、ここにおいておけるパジャマがあればなぁと何度も思ったが、それを置いていくにはまだ気恥ずかしい。かといって、依織のシャツ一枚を羽織るというのも、翌日が休日の場合朝から美味しくいただかれてしまうこともあるわけで。やはり、パジャマがあるとありがたいのだ。
「だめかなぁ……?」
 伺うように尋ねてみると、依織は優しく笑顔を返してくれて。
「お姫様がそう思ってくれるんなら、それでもいいかな?」
「本当?」
「もちろん。こんな素敵な提案をしてくれた君に僕がうそをつくと思う?」
 小さな子供に問いかけるような口調だけれども、むぎは気にせずに首を振る。
「じゃあ、買い物に行こう?」
「……うん」
 差し伸べられた手をとって、むぎは大きく頷いた。


「ペアのパジャマって、色々だねぇ……」
「すずの好きなものでいいよ?」
「だめ! 一緒に選ぶの! あたしだけの好みじゃなくて、依織くんの好みもなきゃ!」
 可愛い言葉に依織はそれはそれは幸せな笑顔を浮かべて。当人たちは意図していなくても、それはそれは甘すぎる空気に包まれていて。
「じゃあ、このブルーのチェックはどうかな?」
「うん。素敵!」
 二人分のパジャマを手にとって、むぎは嬉しそうな顔。
「やっぱり、依織くんは大きいなぁ……。あたしのより一回り以上大きい?」
「じゃあ、すずのはいらないかな?」
「?」
 小首を傾げるむぎに対し、依織はそれはそれはつややかな笑みを浮かべる。
「僕の上身ごろを羽織ってくれたらいいよ? 僕は下だけ履けばいいしね」
「な、なに言ってるの! は、早くレジに行こう!」
 真っ赤になってレジに向かうそれはそれは砂を吐きたくなるようなカップルに周囲の買い物客は何となく安堵のため息をつき、どう見ても青年に途方もない溺愛を受けているであろう少女の身の上を誰もが心配をした。
 その後は色々と小物を買いそろえて。そして、最後につれてこられてのはジュエリーショップ。
「一日だけ…だから、本格的なものじゃないけど。いつかの予行練習に、ね」
 プラチナのそれを左手の指にはめられて、むぎは唖然とする。
「え、だって? 一日だけだよ?」
「うん。でも、その一日が僕には価値あるものだから。それに僕の誕生日が終わっても持ってて欲しいな。つけていなくてもいいから、いつか、本当に家族になる日の約束の証だと思ってくれればいい」
「……うん」
 依織のその言葉に泣きそうになりながらも、むぎはそっと頷く。本当に欲しいものをどうして、こんなにもわかってくれるのだろう…と思って。依織に言わせると,『君の願いは何でも叶えたいんだよ…』と言うことなのである。
「そろそろ、帰ろうか?」
「うん……」
 依織もまた左手の薬指にプラチナのそれをはめると、二人は店を後にするのであった。


「たくさん、買っちゃったね〜」
「そうかい?」
「あたしがお金出すのに、全部依織くんに出させちゃうし……」
 依織の誕生日のお祝いのためなんだからというむぎの言葉を綺麗に無視して、依織が全部お金を出してしまったことを未だに申し訳なく思っているむぎに、依織はただ穏やかに微笑んで。
「君が一日とはいえ、僕の奥さんになってくれるって言うことの価値の方が大きいからね」
 その言葉と共に、リングのはめられた左手薬指にそっと口付けを落とされると、むぎは途端に真っ赤になる。
「指輪、普段はチェーンに通しておくから。でもね、依織くんと一緒の時はつけててもいい?」
「もちろんだよ? まだ、誕生日じゃないのに、僕をそんなに喜ばせてどうするんだい?」
 真っ赤な顔のままのむぎをその腕に閉じ込めるように抱きしめると、依織はむぎに優しい口付けを贈る。
「僕の誕生日は前の日からとまってくれるかい?」
「いいの?」
「了解してくれるのかい?」
 依織の問いかけにむぎは当然そうに笑って。
「だって、誰よりも一番最初に依織くんのお誕生日をお祝いできるんでしょう?」
 何とも可愛らしい答えに依織は抱きしめる腕の力を強くして。
「本当、君は僕を喜ばせる名人だね……」
 幸せそうに笑ってくれる依織にむぎもまた幸せそうに笑顔を返した。

ごめんなさい〜。続きが遅くなりました……。次から、新婚生活には入れたらいいなぁ……。

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