「プレゼントは君がいいのだけれども」
 誕生日の少し前、依織の誕生日プレゼントを何にするか可愛らしく悩むむぎに依織はいけしゃあしゃあと言ってのけた。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが……。あたしって、あたし本人がプレゼントですか?」
 人間、思考が停止すると、口調までこんな思わず変わってしまったりしてしまう。もちろん、本人は気づいてもいない。
「そうだよ? 他に誰がいるというんだい?」
 こちらもまた極上の笑顔。それがあまりにも極上すぎて、むぎは背中に冷や汗がたらたらと流れるのを感じていた。そんなむぎの手をとって、依織は言葉を続ける。
「僕の花嫁さんになってもらいたいのだけれどもね」
「……それって、結婚? だったら、無理だよ!」
「おや、僕が嫌いかい?」
 あっさりと即答されたしまったことに依織は微かに声色を変える。それが更に怖いと思い、むぎは慌てて首を振るしかない。
「き、嫌いじゃないよ! でも、あたし、まだ未成年だもん!」
「でも、結婚できる年だろう? 僕は疾うに超えてるし」
「あたし、まだ高校生だもん。結婚したら、苗字変わっちゃうし。ただでさえ、祥慶ではいろいろと目立ってたし。これ以上は……」
 23歳の型破りな美術教師から、高校生へとなった時に色々と注目されてしまい。慕ってくれた瀬伊とは多かったけれど、何故だか、特別に女性版ラ・プリンスにできないかという声が上がったり、上がらなかったりもする現状。これ以上目立ちたくはない、普通の女子高生で痛いというのはけっして贅沢な願いではないと思う。
「大丈夫だよ。学園長は寛大な方だし。君とも仲が良かったから、かばってくださるよ」
「でも……。学園長はともかく、一哉くんが……」
「一哉?」
 むぎの口から出てきた一哉の名前に依織が反応しないはずが泣く。声色だけでなく、この部屋の空気までが凍りつくような変化をしているようだ。
「君はもう一哉に雇われていないはずだけれども? それとも、一哉が君の行動を監視していると?」
「監視はされてないけど、成績表は届いてるはず……」
「……どういうことだい?」
 聞き返した依織にむぎは言葉を選びながら、答えていく。
「えっと、あたしの祥慶学園での後見人って一哉くんなの。忙しい中、たくさん書類を用意してくれてたりしたんだって、学園長に聞いたの……。その、結婚とかになったら、また色々と書類がいるし。一哉君の手を煩わせちゃう」
「それに何よりも反対されそうだね」
 後見人の立場として反対してこられれば、むぎはそれに従うだろう。それは簡単に予測できる。後見人をわざわざ買って出たほどにむぎを大事に思っている一哉がそう簡単に結婚を認めるとは思えない。
「反対って、あたしが子供だから? それとも、その、家柄とか……」
 一般庶民の家庭に生まれ育ち、不本意な形とはいえ両親を亡くしてしまった。そんな自分が依織に相応しいかと問われれば、首を縦にはふれない。そんなむぎを安心させるように依織はむぎの頬を両手で包み込んだ。
「ごめん、そういうことじゃないんだ。たとえるなら、あれだね。『娘を嫁にはまだやらん』ってところ」
「あ、それ。一哉くんのイメージ。でも、あたし、一哉君の娘にしては出来が悪いって思われるよ」
「お片付けの才能は君が上だから、それでいいんだよ」
 そういう問題ではないのだが、その言い方が妙におかしくて、むぎはくすくすと笑った。
「依織くんの奥さんになりたくないわけじゃないんだよ? でも、そういう事情だから。何か他のものにしてもいい?」
 上目遣いで問いかけてくる可愛らしい恋人の左手を取って、その薬指に口付ける。
「い、おりくん?」
「他のものよりも、やっぱり君がいい」
「でも……」
「僕の誕生日限定で僕の奥さんになるのはどう?」
「それって、警察とかの一日署長さんみたいなもの?」
「そうだね。そんな感じだね。その日一日は僕の奥さんになって、僕と過ごしてほしいんだ」
 むぎの可愛らしいたとえに、依織は笑うことをせず、彼女を乗り気にさせる方向に持っていく。
「わかった。あたし、一日依織くんの奥さんやる」
 可愛らしくガッツポーズをとって見せる恋人に依織は満足そうに頷いた。

すみません。続きます。むぎたん、うまいこと騙されてますw

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