| 誰もが複雑な心境で見守っていた朝食を終えると、レヴィアスは仕事に行く身支度を整える。 「……」 スーツ姿のレヴィアスをアンジェリークは不思議そうに見つめる。 「アンジェリーク……」 「レヴィアス様。間違っても彼女を連れて行くなどとは申さないでくださいよ」 「キーファー。おまえは我を何だと思っている。そんなことは判り切っているに決まっているだろう」 「もうしわけありません」 表面上は慇懃無礼であるが、内心で安堵の溜息にくれるキーファーであった。 「……。アンジェリーク、今のキーファーの言葉通り、我は仕事に行かなければならない。ルノーやショナが着いているとは言え、 おまえを残して行くのは我は忍びないのだが……」 悲しげにレヴィアスはアンジェリークに告げる。その姿にはどこか哀愁を感じさせる。 「あの言い方では、まるで私が悪いみたいじゃないですが……」 「そりゃあ、紛れも無く悪者なんだろうね」 憮然とするキーファーにジョヴァンニが容赦なく追い撃ちをかけてくる。 「……」 暫くの間、じっとレヴィアスを見つめていたアンジェリークはやがてレヴィアスの頭を撫で始める。 「アンジェリーク……」 「♪」 自分は大丈夫だから心配しないで、と伝えるかのような仕種。 「あれって、子供を保育園に預けようとして、子離れできない父親と娘の図だよね」 「見たまんまだな……」 ジョヴァンニの言葉にカーフェイは頷きはするが、アンジェリークは理解している分、レヴィアスの方に問題がある気がする。 「ルノー、ショナ……。アンジェリークを頼んだぞ。何かあれば我を呼べ」 「は、はい」 「……わかりました」 愛しげにアンジェリークの頭を撫でると、レヴィアスはアンジェリークをルノーに預けた。ショナよりもルノーに懐いているし、 ショナもアンジェリークを可愛がるからだ。最年少のためか、自分より小さなアンジェリークが可愛くてたまらないらしい。 「レヴィアス様、お車の準備が出来ました」 ある意味感動的であり、ある意味頭痛がしてやまない時間にようやく終わりが告げられる。 「……」 「お時間はお時間ですから……」 レヴィアスのジト目にも動じず、カインは冷静に告げる。これが自分の役割とはいえ、悲しいものがありすぎる。なまじ、仕えて いる年数が長い分、レヴィアスにこういう態度がとれるのが彼だけとは言え。 「じゃあ、行って来る……」 背中に哀愁を漂わせ、レヴィアスは玄関に向かう。 「何か。毎日この光景が続くのかなぁ……」 「洒落にならないよ……」 毎日見たい光景ではないが、平日には必ず繰り返されることは間違いない。レヴィアスが慣れるのが先か、彼等の神経が擦り 減ってしまうのが先か、微妙なところであろう。 「あ、アンジェ?」 不意にアンジェリークがルノーの腕を擦り抜けて、レヴィアスの後を追い掛けて行く。 「な、何で?」 「と、とにかく追い掛けよう」 レヴィアスの言葉に理解を示したはずなのに、と誰もが思う中で玄関まで走って追い掛ける。 「あ……」 ようやく追い付いたかと思えばもう玄関で。ちょうどレヴィアスを乗せた車が発進するところであった。 「あ……」 目の前で繰り広げられる光景に誰もが目を丸める。 「〜♪」 小さな手をブンブンと振って行ってらっしゃいのお見送り。レヴィアスも気付いて何度も何度も手を振り返す。それは車が見え なくなるまで続けられた。 「レヴィアス様をお見送りしたかったんだね……」 「う、うん。げ、元気にお仕事に行って欲しかったんだ……」 こんなに小さいのに一生懸命に考えて。 「ア、アンジェ。おうちに入ろうか?」 ルノーが声をかけると、アンジェリークはにっこりと笑顔で頷いた。 「可愛いですね、あの天使は」 見えなくなるまで見送ってくれた小さな天使。 「ゲルハルト?」 「なんですか、レヴィアス様」 「チャイルドシートというものは高価なものか……」 「は……」 思わず、ハンドルを切り損ねそうになるが、持ち前の運転技術で危うい所を逃れる。 「高いやつは高いですが。使われるんですか?」 「うむ。アンジェリークに、な」 「うーん。でも、あの嬢ちゃんには羽根があるから、邪魔になって可哀相じゃないですか」 「そうなのか?」 子供を乗せるときにはチャイルドシートがいることは知っていたが、アンジェリークが窮屈になっては可哀相だ。 「だっこしてあげてればいいんじゃないですか?」 「だっこ?」 「ええ。いくら俺だって、気を付けて運転しますし」 「ふむ……」 ゲルハルトの提案にレヴィアスは腕を組んで何事かを思案しはじめる。 ゲルハルトにして見れば他愛ない会話の流れのつもりであったし、これが後のレヴィアスの行動に影響を与えるなどとは考え てもいない。 だが、数日後からアンジェリークを職場に連れていきたがる(単にアンジェリークから離れたがらないだけである)レヴィアスと それを反対するキーファーの間での争いに今の会話が引用されるなどとは夢にも思っていなかった。 |
朝、通勤に使うバスでお父さんを見送るお母さんと赤ちゃんを見かけたのですが。言ってらっしゃいって手を振ってて、
すごく可愛いのです。そんな感じで書きました。
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