「アンジェリーク、着替えるぞ」
「♪」
 着替えるためにタオルのぐるぐる巻からようやく解放された嬉しさに思わずそのまま飛び立とうとするアンジェリークをレヴィアスは
慌てて押さえる。
「〜」
「こら、着替えてからだ!」
 じたばたもがくアンジェリークにレヴィアスはかぼちゃパンツとペチコート等の下着をきせ、靴下を履かせてから、ワンピースに袖を
通させる。もっとも、袖を通すと言っても、ノースリーブのワンピースであるが。背中が大きく開いており、翼が邪魔にならないように
デザインされ、首と腰のところでマジックテープで止められるような形になっている。
 最初はリボンで蝶々結びにするデザインのものも考えられたのだが、こうなることを見越したジョヴァンニの意見で今の形になった。
レヴィアスが着替えやすいようにしていなければ、後で何を言われるかわかったものではない。
「あ、あとはこれです……」
 ひらひらの長めのケープをつけてやると、翼はすっぽりと隠れてしまう。
「ほう……」
 赤ん坊用の小さな赤い靴を履かせれば、完成である。翼がケープで隠れているため、一見すれば、歩き出したばかりの赤ん坊と
何ら変わらない。かぼちゃパンツでスカートがふくらんでいるのが、何とも言えないくらいに愛らしい。
「♪」
 アンジェリーク本人も気に入ったのか、嬉しそうに飛び回っている。
「ルノー、よく用意してくれたな。アンジェリークも喜んでいる」
「は、はい」
 上機嫌のレヴィアスにルノーは感無量である。
「これから、アンジェリークは我が風呂に入れることにした。着替えは我のところに置いておけ」
「はい?」
 再び、幻聴ではないかと、願わずにはいられないカインであるが、やはり現実は厳しいものである。
「考えてもみろ。アンジェリーク一人で風呂に入れると思うか?」
「それは思えませんが……」
 身体だけでなく、その中身もかなり幼い天使にそれを期待するのは酷なことである。
「先程も我が目を離したら、溺れそうになったしな」
「……」
 もはや、これにどうコメントしろというのか。
「ゲルハルトの心配通りだったね……」
 ショナの呟きもまったくフォローになっていない。
「それなら、ゲルハルトが慣れているようですし、彼に任せればよろしいかと……」
「あれは大雑把だから任せられん」
 カインの提案もあっさりと却下される。どう考えても、溺れさせるよりも大雑把な方がましなのだが。
「れ、レヴィアス様はアンジェリークが本当に可愛いんだな……」
 しみじみとルノーが感動している。
「ルノー、ここは感動するとこりじゃないと思う……」
「そ、そうなの?」
「うん、多分……」
 多分じゃなくて、そうなんだ、カインが心の中で叫んだことは言うまでもなかった。
「何だ、カイン。おまえまで、キーファーのように理不尽なことを我に言う気か?」
「いえ……」
 理不尽なのはどっちなのか…考えるだけで空しくなってくる。
「ならばいい。我は食堂に行くぞ。アンジェリークの分の朝食も用意できてるだろうな?」
「もちろんです」
 どれだけ主がご無体であろうと、やるべきことはきちんとする。当然のことだ。
「それならば、行くぞ、アンジェリーク」
 そう言うと、機嫌良さそうにぱたぱたと飛び回っているアンジェリークを捕まえ、腕に抱き抱えて、すたすたと行ってしまう。その後ろ
姿を見て、ショナはボソッと呟く。
「あなたは偉いね……」
 こういう場合、褒められたとしても、まったく嬉しくなどなくて。レヴィアスの筆頭の部下であるために苦労を背負ってしまう己の身の
上にカインは深い溜息をついた。


 なお、後でこの話を聞いた他の部下たちもかなり笑えないものを感じていた。
「やっぱりね、こうなるとは思ってたけど」
「浮袋も用意していて良かったな……」
 アンジェリーク用のお風呂用品に必要かどうかもめたのだが、レヴィアスが自分で入れると言い出した時のために、と用意したのだ。
「風呂用の玩具もあるし。溺れさせなきゃ、何とかなるんじゃない?」
 あまりにもひどいジョヴァンニの言葉ではあるが、誰も否定することなどできない。
「メイドが風呂を掃除する前にくれぐれも後始末を忘れないでくださいよ。レヴィアスの威厳に関わるのですから……」
 苦々しげにキーファーがアンジェリーク用に用意されたお風呂グッズを見つめる。
「威厳も何も合ったもんじゃないだろうが……」
 キーファーが突っ込んでは見るものの、やはり自分たちの主の威厳は保ちたい。余計な仕事がふえたと思っても、そうせざるを
えないのであった。

突っ込みたい気持ちは誰も同じでしょうね……。


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