風呂からあがると、レヴィアスはアンジェリークを抱き上げたまま、バスルームを出る。
「さ、おとなしくしているのだぞ」
 自分の身体もそこそこに、アンジェリークの身体や髪を拭いてやる。ある程度、拭いてから大切なことにレヴィアスは気付いた。
「アンジェリークの着替えがない……」
 レヴィアスの分はきちんと用意されているのに、アンジェリークの分が用意されていない。着替えがなければアンジェリークは裸で
いなければならないということになり、由々しき事態である。
「まったく……」
 アンジェリークの着替えがなければ、着ていた服をまた着せればいいのだが、レヴィアスにはそういう考えはなく、着替えを用意して
やるようにルノー言わなかった自分を悔いるしかない。
「すまないな、しばらく待つのだぞ」
「?」
 かわいらしくアンジェリークが首を傾げたのにも関わらず、レヴィアスは有無を言わさずにタオルでアンジェリークをぐるぐる巻にして
しまう。小さな天使はタオル一枚で十分包めるらしい。
「〜」
 いやいやとアンジェリークはもがくが、身動きも侭ならない。レヴィアスは気にすることなく着替え始める。
「さ、おまえも着替えるぞ」
「……」
 恨めしそうな瞳でレヴィアスを見上げるが、レヴィアス的にはアンジェリークが湯冷めをしないように考えた末の行動なので、さりとて
気にはしていないようだ。むしろ、いいことをしたと思っているらしい。
「さ、行くぞ」
と、そのままタオルで包んだままのアンジェリークを抱えてバスルームを後にした。
「アンジェリークの着替えはないのか」
「……は?」
 シャワーを浴び、朝食を食べに来たはずのご主人様の言葉に、カインは自分の耳を疑った。いや、空耳であって欲しいと願っていた
のかもしれない。
 だが、現実は時としなくても残酷だ。
「聞こえなかったのか? 仕方のない奴だな」
 仕方のないのはあなたです、喉元まで出かかった言葉を何とか飲みこむ。長年、彼に付き従って来たのだ。ある程度の忍耐力は身に
ついている。
「そのお姿はどうされたのですか?」
 まずは状況把握から。すこし不機嫌気味の表情でバスタオルに包まれた小さな天使にだいたいの想像はついてしまうのだが。
「昨夜、アンジェリークは眠ってしまって、風呂に入っていなかったのでな。シャワーのついでに風呂に入れたのはいいが、着替えが
ない……」
「そうですか……」
 もはや、追究する気にもなれない。
「その天使の世話はルノーたちに任せるのではなかったのですか?」
「我がいる時は我が見てやるにきまっているだろう」
 何の疑問もなく発せられる言葉。
「……わかりました。ルノーに持ってこさせましょう」
 軽く溜息をつきつつも、次の行動に移るカインはやはり優秀な部下であった。
「あ、あの、き、アンジェリークの着替えはこれですけど……」
 その言葉と共に、ルノーが差し出したアンジェリークの着替えをレヴィアスは受け取る。
「レヴィアス様が着せるんですか?」
 ショナの疑問にレヴィアスは何を今更と言った顔をする。
「我が拾ったのだから、当然であろう?」
「そうですか……」
 その返事にやはり聞くだけ無駄だったと言う顔をするショナ。
「あなたも苦労してるね、カイン……」
「ショナ……」
 ポンと自分よりかなり年下の少年に肩を叩かれて慰められても、複雑な想いが去来するだけである。

 やっぱり、カインが一番不幸かもしれない……


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