新聞と空の水差しを抱えて戻ってきたルノーはそれらを片付けてから、カインのところに向かう。
「た、ただ今戻りました。レヴィアス様はシャワーを浴びてから、朝食をとるそうです」
「そうか。わかった」
 ルノーの報告を聞くと、カインは調理人たちに朝食を出す時間の指示をしに、厨房に向かう。これも朝の習慣である。出来立ての
一番美味しいものを主人に食べさせるのも大事な仕事である。
「あれ、あのおちびちゃんはどうしたの?」
 新たな娯楽の種をルノーが連れていないのを指摘するジョヴァンニ。レヴィアスがシャワーを浴びるなら、その間はルノーが面倒を
見ると思っていたのに。
「ア、アンジェリークはレヴィアス様がついでにお風呂に入れるって……」
 ルノーは聞かれたことをあるがままに答える。
「ついでにって、シャワーを?!」
「う、うん……。ほ、ほら、昨夜お風呂に入らなかったし……」
 レヴィアス様はお優しいなぁ、と素直に思うルノーとは裏腹に、複雑な色の空気が彼らの間に流れた。
「親分、子供を風呂に入れたことがあるのか……?」
「そういう問題じゃない気がする……」
 ゲルハルトの言葉に冷静に突っ込みを入れるショナ。だが、ゲルハルトは真剣である。
「頭がいいばっかりの坊主は知らねえだろうがな、あのくらいの子供を風呂に入れるのは大変なんだぞ。耳に水が入らないように
したり、湯冷めさせないようにだな……」
 などと、真剣に子供の風呂の入れ方について講義までし始める。どうでもいいので、聞き流されてはいるが。
「それより、羽根が濡れてもいいのかなよ?」
 ウォルターにしては、ひどくまともな意見。こちらは素朴な疑問からなのだが。天使とは言え、羽根が濡れてしまえば、飛ぶことも
かなわないのではないかと思う。水鳥のように、水を弾く事ができるのなら、別としてだが。
「濡れないように入れられないよなぁ……」
 ほとんど無理な話である。レヴィアスにその手の能力は欠如していると言っても過言ではない。生活能力の代わりにあるのが、あの
カリスマ性のような気もするし。大きな溜息が所々から漏れる。
「み、みんな、どうしたの?」
 きょとん、と周囲を見るルノー。これはこれで幸せなのかもしれない。
「君はそのままでいた方がいいね……」
「?」
 ポンとショナに肩を叩かれるが、意味が判らない。キョトンとしたままのルノーであった。



 一方、バスルームはというと……。
 鍛え上げられたしなやかな身体は無駄な肉はついていない。レヴィアスは自分の服を脱ぐと、アンジェリークに向かう。
「両手を上げてみろ」
 言われるままに両手をあげて、万歳のポーズになったアンジェリークの服を脱がせてやる。ローブのようなその服は不思議なことに
縫い目一つなかった。
「なるほど、天衣無縫ということか……」
「?」
 妙な感心をするレヴィアスを不思議そうに見上げるアンジェリーク。
「何でもない。風呂に入ろう」
 小さな天使を抱き抱えて、レヴィアスはバスルームに入った。

部下たちを書くのが楽しかったです。ゲルハルトって、小さいこの面倒見良さそうですよね。


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