レヴィアスが新聞に目を通している間はアンジェリークも退屈なのか、所在なげな様子。ルノーが出してくれたオレンジジュースを
飲んだら、やることがないのだ。
「ご、ごめんね、アンジェリーク。何か玩具でも持って来たら良かったね」
 アンジェリークのために用意していた玩具はアンジェリークの部屋で出番を待ち兼ねている。持ってこられればよかったのだが、新聞と
水差しとジュースで手が一杯だったのだ。そのことを申し訳なさそうに言うルノーにアンジェリークは首を振る。そんな顔をさせたかった
わけではないのだ。そんな二人の様子に、レヴィアスは読んでいた新聞から目を離し、僅かに眉間に史話を寄せ、溜息をつく。
「アンジェリーク、もう少ししたら、おとなしく見終わるから、待っていろ。ルノーも、だ。気に病むことではあるまい」
 レヴィアスのその言葉にルノーとアンジェリークはコクリと頷いた。
(や、やっぱり、レヴィアス様は優しい人だな……)
 ビジネスの世界では容赦なく、冷徹な一面を持つレヴィアスを知ってはいるが、自分のような者に優しい声を掛けてくれるのだ。優しく
ないはずがない。
 が、やはり、理想は理想で真実は別の場所にあるのが世の常である。
(あまり、落ち込まれると、アンジェリークが心配してしまうからな……)
 と、思惑はこんなものである。けれど、それをルノーが知る必要はさらさらなく。周りの部下たち(特にカイン)が素直過ぎる少年の言葉を
引き攣った笑みで肯定すればいいだけの話だ。多分……。
 そういうわけでレヴィアスが新聞を読んでいる間、少年と小さな天使は大人しく待っていた。
「待たせたな、アンジェリーク」
 ようやく新聞を読み終えたレヴィアスが新聞を傍らに置き、両手を広げると、アンジェリークはパタパタとレヴィアスの腕の中に飛びこんで
行く。ルノーは無造作に置かれた新聞を丁寧に揃える。
「あ、あの、レヴィアス様、朝食はすぐにですか? そ、それとも、シャワーのあとですか?」
 読み終えた新聞と入れ替えた水差しを持って変えるついでにこれを聞くのもルノーの役目であった。悪く言えば、パシリだが、本人は
満足そうにしているから、問題はないらしい。少しでも、レヴィアスのお役に立ちたい…健気な思い…である。
「あぁ、そうだな……」
 本当はあまり欲しくはないのだが、そういうわけにはいかないらしい。軽く溜息をつくと、不思議そうにアンジェリークが見上げて来る。
「そう言えば、アンジェリークは昨日風呂には入っていないな?」
「は、はい。ね、寝ちゃったし……」
 すやすやと夢の中に落ちたところをレヴィアスにお持ち帰りされたので、当然と言えば、当然である。寝ているところを無理に起こして
風呂に入れては可哀想だし、そんなことをすれば、レヴィアスにどんな冷遇を受けるかわかったものではない。
「シャワーを浴びるついでに、アンジェリークを風呂に入れてから、朝食にする。そう伝えておけ」
「わ、わかりました」
 ペコリと一礼すると、そのまま新聞を持ってルノーは部屋を出て行った。
「じゃ、風呂に入るぞ」
「?」
 いまいち状況のわかっていないアンジェリークは首を傾げる。そんな天使に構わず、レヴィアスはバスルームに向かった。


素直すぎるよ、ルノー……。


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