レヴィアスの朝はまず新聞に目を通すことから始まる。いつも、五紙ほどに目を通す。そのため、決まった時間にルノーが届けに
来る。
「レ、レヴィアス様。おはようございます。き、今日の新聞です」
「ああ。そこに置いておけ」
「は、はい」
 そのついでに水差しの水を新しいものに変える。ルノーがレヴィアスの元に来てから、変わることなく行われている役割。だが、今朝
から変わったこともある。
「〜!」
「お、おはよう、アンジェリーク」
 ブンブンと手を振り、笑顔を振り撒く天使につられて、思わず笑顔に。人見知りの激しい少年もこの小さな天使に対してはそのような
そぶりは見せない。アンジェリークのことをレヴィアスのために舞い降りた天使だと信じているためだ。だから、笑顔でいて欲しくて。
笑顔には笑顔で返そうと努力している。
「ア、アンジェリークにはこれを」
 絞りたてのオレンジジュースの入ったグラスをサイドテーブルに置く。これは夕べ、レヴィアスに命じられていたことだ。睡眠中に失わ
れた水分を補うために、レヴィアスは目覚めの水に冷たいミネラルウォーターを飲む。アンジェリークの分はジュースにしろと命じられて
いた。
「ああ。アンジェリーク、飲むといい」
 そう言って、レヴィアスが腕の中に抱き抱えていたアンジェリークを離すと、アンジェリークはパタパタと飛び立つ。だが、アンジェリークが
向かったのはジュースではなく、ルノーの元であった。
「ど、どうしたの?」
 同じ目の位置でじっと見つめてこられると、ルノーとしては戸惑うしかなくて。そんなルノーにアンジェリークはゆっくりと顔を近付ける。
 パニックに陥り、動けないルノー。だが……。
「?」
 不意にアンジェリークの動きが止まる。いや、止められたと言うべきか。寸前のところで、レヴィアスの手がアンジェリークの衿を掴んで
いたから。襟を捕まれたアンジェリークはパタパタともがいている。
「すまぬな、ルノー」
「は、はぁ……」
 事情はよく判らないがここは頷く方が得策であると思う。レヴィアスはアンジェリークを自分の元に引き寄せる。
「〜?」
 どうして?と言った表情でレヴィアスを見るアンジェリーク。レヴィアスが教えてくれた“朝の挨拶を”実行しようと思っただけなのに
止められる理由がわからない。レヴィアスがしてくれてすごく嬉しかったし、アンジェリークが同じことをしても喜んでくれたのに。
「アンジェリーク」
 諭すようなレヴィアスの口調にキョトンとする。
「?」
「あの挨拶は特別なものなのだ。そして、それをされることを嫌がる者もいる。だから、むやみにしてはいけない。わかるか?」
 こくり、と頷く。
「我とお前はされても嫌ではなかったが、ルノーもそうとは限らぬ。いや、ルノーだけではなく、他の者たちも、だ。だから、我以外
にはしない方がいい」
 神妙な顔で頷くアンジェリーク。だが、最初に朝の“挨拶”と称してアンジェリークの頬にキスをしたのはレヴィアスである。そのことは
頭には入っていないらしい。
(我以外の者には抱き着かぬようにも言っておかねばな……)
 つまりはただの独占欲である。これがカインなら、発言の真意に気付いて沈黙するが、幸いにも相手はルノーである。ちなみにこの
場合の幸いとは、見ているものの精神的な苦痛の有無による。根が素直で疑うことをルノーはレヴィアスに憧憬を抱き、崇拝して、疑おう
などとは考えてもいないのだから。


レヴィアス、大人気ない……。


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