| 「ルノー」 「は、はい……」 突然呼び掛けられて、ルノーはひどく緊張する。何か、自分の知らぬところでレヴィアスを怒らせるような真似をしたのだろうかと、 この大人しくて、気が弱い少年は怯えてしまう。実際には彼の周りにいる大人よりも遥かに有能だと見なされているのだ。もう少し、 自身を持たせた方がいいかも知れないとカインなどは考えている。もっとも、ユージィンに言わせると、それはルノーの謙虚さであり、 いいところであり、可愛いところなのだそうだが。 「アンジェリークはそのような本を喜ぶのか?」 「え?」 何を言われたのか、一瞬戸惑ってしまう。叱られたわけではなさそうだ。一方、レヴィアスはルノーの様子に無頓着なまま。 「えっと、この画集ですか?」 「それ以外の何だと思っている?」 「そ、そうですね? す、すみません!」 「わざわざ、謝る事でもない」 「……」 上手く答える事ができなくて、すっかり萎縮してしまうルノーである。 「謝るなといった。それに気にするな。アンジェリークが心配する」 「は、はい……」 この場合に考えられる意味は二つ。心優しい天使がルノーが脅えているのを見て、心が痛むこと。もう一つは天使にそんな顔を させるのは自分以外の人間だと不本意である事。誰もが、後者を予想した。 大人ばかりのこの屋敷の書庫に小さな天使が喜ぶ絵本や童話の類などあるはずもない。年少者のルノーも持ってはいなくて。 それで、見るだけでアンジェリークが興味を示しそうな画集にしたのだ。宗教画を中心とした絵の中には天使の絵もあったから。 「え、えっと。こ、これより、童話とか絵本の方が喜んでくれるんじゃないかと……」 「彼女が何処まで言葉を理解するのか図れなかったのです。ルノーは悪くありません」 ルノーを庇い、間に入るユージィン。ルノーの監督者兼、保護者としては当然の反応とも言えるだろう。 「別に責めているのではない。アンジェリークに読んでやるための参考に聞いたまでだ」 「はぁ……」 思わず聞き流しそうになったレヴィアスのその言葉は実はとんでもないことだと言うのに、時差はほんの数秒であった。 「か、可愛い光景になるはずなんだが……」 「考えるのはちょっと……」 思わず、現実逃避に走る彼等には罪はない。 膝の上に子供を座らせて、絵本を読んでやる…なんて、ほのぼのとした親子の情景であろうか。誰もがほほえましいとすら思う だろう。ただし、それは行う人間次第だ。 レヴィアスがそれを行うのだとという。想像するのは、彼等的に避けて通りたい。 「笑うなよ。笑ったりしたら、俺等の明日はないものだと思えよ……」 カーフェイのその言葉に頷きはしても、反論できる筈もない。自分の身は自分で守るしかないのだし。 「レヴィアス様ともあろうお方が……」 キーファーの言葉は彼に出来る唯一の抵抗だったかもしれない。誰も聞く耳を持とうとはしなかったが。誰だって最後は自分が 一番可愛いのだから。 だが、彼等の内心など、レヴィアスの気にすることではない。 「ルノー、アンジェリークが喜びそうな本を選んで来い。お前が選ぶものなら間違いはないだろう」 「は、はい!」 レヴィアス直々の命令にルノーは緊張と喜びを隠せない。レヴィアスに信頼されるという重み。だが、認めて貰えているという 喜びもある。それは何よりルノーに自信をつけさせる結果をもたらすだろう。 (流石、レヴィアス様だというべきなのだろうな……) 内心でカインは感心する。レヴィアスの目的はともかくとして、人選には間違いはない。性格に一癖も二癖も彼らの中で、ユー ジィンの溺愛とも言える保護下で、ルノーは素直なままなのだ。ある意味、アンジェリークと性格的に一番近いのかもしれない。アン ジェリーク のために選ぶ本に間違いはないだろう。 小さな天使を抱き抱えているのには敢えて目をつぶるしかなさそうだ。こう達観できるからこそ、カインはレヴィアスの筆頭の部下 でいられるのだが、今はあまり喜びたくはなかった。 |
アンジェが可愛くて仕方ないとは言え……。いや、もはや何も言うまい……。
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