そして、諦めのつく参謀は今後の対応を否応無く求められる。損な性分だと思いつつ、それが出来るのが自分だけだという現実も受け
入れている。右腕と左腕の違いの大きさははここにある。
「ルノー」
「な、何?」
 思い付いた非常手段をカインは口にすることにする。犠牲は少ないに越したことはないし、ルノーは自分が犠牲だなんて考えもしない
はずだ。
「レヴィアス様のこの時間の執務の間だけはレヴィアス様の部屋にいてくれないか?」
「ぼ、僕なんかが、レヴィアス様のお部屋に?」
 思わず、ルノーの声が震える。だが、部下たちの誰もがその提案に納得する。場所を変え、アンジェリークの方をレヴィアスの傍に
置く方が手っ取り早い。ルノーはそれを恐れ多いとは思っても、苦痛には感じない。ある意味、人身御供ではあるのだが、本人が納得
していれば、それでいいのだ。
「勿論、その分の埋め合わせはする。レヴィアス様、私の一存で決めましたが、構わないでしょうか?」
「別に我は構わぬが……」
 取りあえず、目の届く所に小さな天使の存在があるのなら、それでいいらしい。
(いくら何でも、通常の業務ではこうはおっしゃらないはずだし……)
 あくまでも、それはありえない、カインは強く自分にそう言い聞かせる。そうでなければ、不安に押し潰されそうになる。
 苦悩するカインの姿をアンジェリークは不思議そうに見つめていた。
 その後のレヴィアスの書類に目を通し、必要な指示を出すペースはかなりの早さであったことは言うまでもない。しかも、正確である。
勿論、いつもの処理能力も早いが、それを遥かに上回るのだ。
「すげぇなー、親分」
「よっぽど、あの子が可愛いんだな……」
 感嘆するゲルハルトとウォルター。素直に感心してほしくない、苦労している人間の心の叫びに彼等が気付く筈もなく。
「あんたの苦労はわかるが、俺等にはどうしようもないからな」
 自分に火がかからないように、釘を刺すカーフェイ。誰だって、自分の身は可愛いのだ。
「アンジェリーク、来るがいい」
 レヴィアスが手招きすると、アンジェリークはきょとんとルノーを見上げる。つい今まで遊んでくれていた相手を置いていいのか迷って
いるらしい。
「レ、レヴィアス様が呼んだら、す、すぐに行ってあげてね。お仕事が終わったから、遊んでもらえるよ」
 その言葉に嬉しそうに頷くと、アンジェリークはぱたぱたとレヴィアスの腕の中に飛び込んで行った。
「待たせたな、アンジェリーク」
 自分の腕の中に嬉しそうに収まるアンジェリークについ、レヴィアスは笑みを零す。普段の冷徹ともとれる無表情さに慣れた部下たち
から見たら、信じられない光景。
(ルノー、よくやった!)
 あの言葉で、アンジェリークは呼ばれたらすぐにレヴィアスの所へ飛んで行くことを覚えてくれた。とりあえず、レヴィアスの機嫌を損ねて
はいない。
 一方、レヴィアスはと言えば、アンジェリークを膝の上に載せて、満足げな様子。アンジェリーク自身も、レヴィアスの元が一番いいのか、
にこにこしている。

アンジェが可愛くて仕方ないとは言え……。いや、もはや何も言うまい……。


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