“レヴィアス”
 心に届く声だからこそ、深い愛情を感じる。それは彼の気のせいではなく。天使が心から、そう思っているから。何の邪心も無く、
ただレヴィアスに喜んでもらいたい、それだけのこと。その思いから、声にはならない言葉を紡ぐ。
「ありがとう……」
 素直にこんな言葉が出てくる自分がとても不思議な感じがする。だが、それはまさしく彼の本心で。その言葉にきょとんとしながらも
にっこりと笑顔を見せるアンジェリーク。お礼の言葉が嬉しいのではなく、レヴィアスが喜んでくれた事が嬉しくて。そんなアンジェ
リークの笑顔にレヴィアスは何度もそのさらさらとした髪を撫でてやる。癖の無い髪は触る分にも心地よくて。そして、される方の
アンジェリークもそうされる事で感じる彼の愛情にされるがままになる。
(我に似合わぬ…か……)
 冷徹な支配者としての一面を持つ自分自身をよく知っている。だが、今はこうしていたい。この小さな天使がもたらすこの安らいだ
時間を……。
 レヴィアスの腕の中がすっかりお気に入りになってしまったのか、すりすりと頬を摺り寄せる。肉親は既におらず、兄弟もいなかった
レヴィアスにとってはこのような小さな子供の対応が理解できない。だが、アンジェリークにこうされるのは嫌ではなく、むしろ仕種の
一つ一つがいとおしく感じる。ルノーやショナもレヴィアスから見たら幼くはあるが、部下と言う認識しか持ってはいない。それにこの
天使に比べると、育ちすぎている(笑)。
「ふむ……」
 抱きつかれた体勢のまま、改めてこの小さな天使を観察する。赤ん坊ほどの小さな身体。だが、中身は赤ん坊の頭脳よりもかなり
優秀であろうことはわかる。赤ん坊に接する機会がほとんど無かったとはいえ、レヴィアスの言葉を理解してくれ、それを実現しようと
してくれるくらいには知恵があるということだ。
 背中にあるのは純白の翼。まるで、この小さな天使の心のように、汚れ一つ無い。触れてみると、ふわりとした羽根の感触。それが
思いのほかに心地よくて。思わず何度もなでまわすと、
「〜〜」
 いやいやと言うように、アンジェリークは首を振る。少し不機嫌そうな表情で。どうも羽根を必要以上に触られるのは嫌なようだ。この
翼で空を飛ぶのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。そう納得する。
「ああ、すまなかったな」
 そう言って、手を離すと、機嫌を直したのか、すぐに笑顔に戻る。そして、じっとレヴィアスの顔を見つめる。
「どうした?」
 レヴィアスの問いかけにアンジェリークは手を伸ばして、その前髪に触れる。その行動の意図するところを察して、レヴィアスは
前髪をかきあげる。すると、金と緑の異彩を放つ瞳が露になった。
「これでいいのか?」
「♪」
 コクコクと嬉しそうに頷く。綺麗な二色の瞳。いつまでも見ていたいと思うのに、レヴィアスは長い前髪で隠したまま。それがアンジェ
リークには不思議でならなかった。
「我のこの瞳が好きか?」
 その問いかけに当然とばかりに笑顔で頷く。首に手を伸ばして、頬を摺り寄せて。言葉の代わりに行動で示す。ここまでされれば、
信用しないわけには行かない。もっとも、アンジェリークの行動の意図するところを疑おうとも思わないのだが。
「ならば、我も好きならねばならないような……」
 異色の瞳は不吉であると、根拠の無い言葉を何度も投げかけられてきた。何か悪い事があると、この瞳のせいにされた。周りの
意見は周りの意見と跳ね除けたとしても、そういわれ続ければ、自分の瞳を好きになれるはずも無く。長い前髪で隠し続けてきたのだ。
「おまえといる時はちゃんとこの瞳を見せればいいのだな?」
 レヴィアスのその言葉に大きく頷いて、嬉しそうに笑顔を見せる。大好きな綺麗な瞳に自分自身が映る事がとても嬉しくて。羽根を
パタパタさせて、レヴィアスに抱きつく。
「こらこら、あまり暴れるな」
 そう言いながらも、喜ぶアンジェリークが愛らしくて。しっかりと受け止めてはいる。忌まわしきものであるはずのこの瞳すら、アンジェ
リークが喜んでくれるならば、これでいいのかもしれないと思えてくる。無条件で愛してくれる存在を初めて知ったからかもしれない。
無邪気で小さな存在だからこそ、あるがままを素直に見つめるのか。
“レヴィアス”
 無邪気に呼びかける天使の笑顔。何気ない事。だが、相手次第ではそれが喜びになる事を知ったレヴィアスであった。
 アンジェリークをその腕に抱えたまま、レヴィアスは庭を歩き出す。色とりどりの花や、東屋、ところどころに置かれている彫刻をアン
ジェリークは興味深そうに見ている。
「この庭は広い。おまえの遊び場にはちょうどいいのだろうな……」
 そう言いながら、東屋のベンチに腰掛ける。今日は天気がよく、日差しが少し眩しい。
「ゲルハルトに何かおまえが遊べそうなものを用意させておく。あれは子供時代はよく遊びまわっていたと言うからな。ルノーよりは
適任だろう。生憎、我はおまえが喜ぶようなものを思いつけないのでな……」
 あまり、幸福とはいえない子供時代。一人で過ごすことが多かった。子供の遊びなどとは縁がない生活だったのだ。
「……」
「アンジェ……」
 小さな手が優しく頭を撫でてくる。まるで、小さな子供が自分より小さな子供を慰めるかのように。
「これではどっちが子供かわからぬな……」
 それでもその手はとても暖かくて。優しくて。アンジェリークにされるがままになるレヴィアスであった。


どっちがオトナなんだ(ーー;) レヴィアス、あんた……。


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