一方、部下達がそんな会話をしているとも知らず、レヴィアスはアンジェリークを胸に抱いて、庭を歩いていた。 あまり手を入れさせず、自然のままに咲かせている中庭の花を楽しそうに見つめている。 「この庭は広い。我がいないときはここで自由にするがいい。遊び道具なら、用意させておく」 どういったものを喜ぶかはわからないので、ショナに選ばせる事にしている。彼にとってこの庭は日常から離れるための空間で しかなかったから。子供らしく遊んだ記憶など、皆無なのだ。 「……」 不意に服の裾を掴まれる。視線を向けると、遠慮がちに腕を外そうとしている。 「ああ、悪かったな」 無意識のうちに抱きしめる力を強くしていたらしい。力を緩めてやると、スルリ、と腕の中を抜けてしまう。ただ、それだけなのに、 例えようもない喪失感を感じた。 「〜♪」 パタパタと小さな羽根を羽ばたかせて、アンジェリークは楽しそうに、庭の中を飛んでいる。庭に咲く花々を興味深く眺めたり、 触ったり。翼があることを除けば、本当に小さな子供のよう。 何も知らない、一点の穢れすらもない天使。突然、現れたと言うのに、こんなにも存在が大きくなってしまっている。…と、言うより、 何も ない心に入り込んできたと言う方が正確なのかもしれない。 「……」 「アンジェ?」 ふと、そんなことを考え、思いにふけってしまったレヴィアスをじっと見つめる視線。レヴィアスと同じ視点になっている。抱きしめ られていると、どうしても、見上げる体勢になってしまうためか、アンジェリークはじっとレヴィアスを見つめてくる。 「どうした?」 「……」 小さな手を伸ばして、アンジェリークは長すぎるレヴィアスの前髪に触れる。すると、隠されていた金の瞳が見えた。 金と緑の瞳が一つずつのオッドアイ。それは見る者によっては、悪魔のように見えたり、神秘的に見えたり、反応は様々。レヴィ アスが生まれた時より、好奇の目にさらされてきた。両親ですら、蔑むような目をしていた。だから、今更、他人の目など気にする こともない。 そう思い続けてきた。 「この瞳が不気味か?」 じっと見つめてくる視線に苦笑しつつ、レヴィアスは尋ねる。この天使もそうなのかもしれない、そう考えると、ほんの少しの胸の 痛み。 「魔性の瞳…と称する者もいる。天使には耐えがたいものかも知れぬな……」 そう自嘲気味気味に呟くその言葉をアンジェリークは首を振る。そして……。 「アンジェ?」 ふわり…と、柔らかな何かがレヴィアスの頬に触れる。それはとても優しいぬくもりだった。 小さな手が優しく頬を撫でている。まるで、小さな子供が自分よりも小さな子供を慰めようとするかのように。純粋な眼差しは優 しい光を映し出している。そんなことで、暖かく柔らかな気持ちになる。 サラリ…と、小さな手がレヴィアスの前髪をかきあげる。 「アンジェ?」 レヴィアスが戸惑うよりも先に、瞼に柔らかなぬくもりが与えられる。その柔らかなものが小さな天使の唇である事に気づくのに、 軽く10秒はかかったレヴィアスであった。 「♪」 どう反応したらよいかわからずに戸惑っているレヴィアスをニコニコと見つめるアンジェリーク。 「我のこの瞳を恐れぬのか?」 「……?」 レヴィアスのその言葉にどうして?と首を傾げる。そして、全身で親愛を表すように、レヴィアスに抱きついてきた。 小さな手が優しく頬を撫でている。まるで、小さな子供が自分よりも小さな子供を慰めようとするかのように。純粋な眼差しは優しい 光を映し出している。そんなことで、暖かく柔らかな気持ちになる。 サラリ…と、小さな手がレヴィアスの前髪をかきあげる。 「アンジェ?」 レヴィアスが戸惑うよりも先に、瞼に柔らかなぬくもりが与えられる。その柔らかなものが小さな天使の唇である事に気づくのに、軽く 10秒はかかったレヴィアスであった。 「♪」 どう反応したらよいかわからずに戸惑っているレヴィアスをニコニコと見つめるアンジェリーク。 「我のこの瞳を恐れぬのか?」 「……?」 レヴィアスのその言葉にどうして?と首を傾げる。そして、全身で親愛を表すように、レヴィアスに抱きついてきた。 元々、才能を発揮できる場がなかった彼らにとって、レヴィアスは恩人なのだ。もっとも、それを恩に着せるようなレヴィアスでは ないし、彼らもあえてそういうことは言わないが。その分、仕事で返す事にしている。それが彼らなりのレヴィアスへの忠誠である。 「おまえはどうして我の前に現れた?」 「……?」 その言葉に、可愛らしく首を傾げる。本当に何もわかっていないのだ。それこそ、生まれたばかりの赤ん坊にどうして生まれて きた?と 尋ねるようなもの。真っ白な雪のように純粋で穢れない存在。その存在をこうして抱きしめていると、何だか自分自身も幼い頃に帰る ような不思議な感覚。レヴィアス自身には両親に抱きしめられた記憶など、皆無に等しいと言うのに。 「我の名を呼べるか?」 不意に気まぐれのように思いついた言葉。生まれたばかりで言葉を話さないし、話せないのかもしれないのに。 「……」 困ったようにうつむいてしまうアンジェリークにレヴィアスは苦笑する。ずいぶんと無理を言ってしまったようだ。ただ、この小さな 天使が自分の名を読んでくれたら、この名を好きになれるかもしれない、そう思ったのだ。 “正統なる者”を意味する名だと、言われた。幾分かの捨扶持を与えられ、自堕落に暮らしていた父親のせめてものプライドだった のか。だが、そんなプライドの押し付けなど、レヴィアスにとっては迷惑極まりないものだった。彼にとって名前とは、ものを識別する ための記号と なんら意味のないものとなっていた。 「悪かったな。我の我が侭だ。おまえが気にすることはない……」 そう言って、何度も頭を撫でてやる。さらさらの髪が心地よい。素直で愛らしいこの天使が目の前に現れて数時間しかたっていない。 だが、その存在はすでにレヴィアスの中で大きくなっていた。 「……」 じっと見上げてくる曇りのない瞳。最初は光の塊だった。触れてみると、暖かかったぬくもり。それはこの小さな天使の姿になっても 変わることはなかった。決して、知ることのなかったぬくもりだったのだ。 名前の事など、本当はどうでもいい。この小さな天使が自分を必要としていると思いたかっただけかもしれない。 “……” 「アンジェリーク?」 口を何度か、パクパクさせて、アンジェリークは何かを訴えようとしている。最初は戸惑いつつも、レヴィアスはそれが意図するところに 気づく。 「我の名を……?」 コクリと頷くアンジェリーク。何も言わないのに、レヴィアスの心の奥を知ったかのように、何度もそれを繰り返す。 「レヴィアス、だ」 ゆっくりと唇を動かす。小さな指を自分の唇に触れさせて。ゆっくりとつむいでゆく。 根気よく、何度も何度も繰り返す。一言ずつ、丁寧に。何度も何度も、唇を動かして。そうすると、ぎこちなかった唇の動きが滑らかに なってくる。 “レ…ヴィ……” 少しずつ、形になってゆく言葉。小さな唇を一生懸命動かすアンジェリークの様子に例えようもない愛しさが生まれてくる。限りなく 優しい眼差しで、それを見つめる。 “レヴィアス……” ようやく、つむぎ終えたその言葉にアンジェリークは嬉しそうに笑う。 “レヴィアス!” 一度、つむぎだしてしまえば、あとは滑らかに唇が動く。何度も何度もその小さな唇はレヴィアスの名前をつむぐ。正確に言うと、 声を出せないので、話すとはいえないのかもしれない。だが、きちんとレヴィアスという存在を認識して名前を呼んでいる。 レヴィアスと認識して、名を呼ばれる。そのことが嬉しくて。誰かに名を呼ばれることがこんなに嬉しいとは知らなかった。それは この小さな天使が呼んでくれているからか。 “レヴィアス” 声にはなっていない言葉。だが、唇は確かにその名を紡ぎ、レヴィアスを呼ぶ。耳にではなく、心に届く声。 「アンジェリーク」 “レヴィアス” 呼べば、答えてくれる。ただ、それだけのことがこんなにも心を満たす。あどけなく、愛らしいこの小さな天使はいるだけで、すべてを 癒してくれる。 「もっと、我の名を呼んでくれ……」 その言葉ににっこりと笑い、何度も唇を動かす。 “レヴィアス” そう呼び掛けることで喜んでくれることを知ったから。何度も何度も呼び掛けた。 |
レヴィアス、強要するなよ……。アンジェのほうがオトナ? 嫌すぎ……。
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