「アンジェリーク。この者達はこの屋敷に住む我の部下達だ。おまえに危害を与えるようなまねはさせぬが、この者達の仕事の邪魔に
ならぬ程度にこの屋敷で自由にするがいい」
 そう告げると、小さな天使は意味がわかっているのか、わかっていないのか、ただコクコクと頷くだけ。
「どうなされたのですか、それは……」
 比較的冷静に尋ねてくるのは、ユージィンといい、レヴィアスの事業の事務全般を任されている。彼の部下の中ではカインの次に落ち
着きがある性格ゆえに、だ。
「我が庭にいたら、突然目の前に現れたのでな。我に懐きもしたし、捨て置くわけにもいかぬのでな。ここに置く事にした」
「……」
 レヴィアスの腕の中にちょこんと収まっているその様子は確かに愛らしい。だが、そういう問題ではないとカインだけでなくとも、思う
のだ。
「むやみに落ちているものを拾うなと、申し上げているではありませんか! もう少し、配慮した行動をなさってください」
「キーファー」
 苦言を呈してくるキーファーに対し、レヴィアスは真摯な顔で向き直る。
「なんでしょうか?」
「拾ったのではない。庭にいたら、宙に浮かんでいたと我は言ったはずだが。耳が悪くなったのか?」
「だから、そういう問題ではありませんっっ!」
 論点がずれてはいるが、レヴィアスは真剣な顔だ。それには彼の部下達も反応に困ってしまう。
「もし、何らかの危険があったらどうするのです。即刻、それを処分なさってください。いいですね」
 そう言うと、きつい視線をアンジェリークに向ける。ビクゥとアンジェリークは震え、レヴィアスにしがみつく。
「あまり、きつい顔をするな。アンジェリークが脅える……。大丈夫だ、アンジェリーク。おまえはここにいても良い。我が、ここに連れて
きたのだからな」
 アンジェリークの身体から、脅えが取れるまで、絹糸のような栗色の髪を優しく撫でてやると、ようやくおずおずと顔を上げ始める。
「我を信じろ……」
 その表情は彼の部下達、長年使えてきたカインですら見たこともないくらい優しい表情。それらは今、この小さな天使にだけ向けら
れている。愛しさを隠せない、そんな感じで。
「……」
「判ってくれたか?」
 コクコクと頷くそんな様子も愛らしい。レヴィアスは安心したようにホッと息をつく。
「レヴィアス様……」
「我の決めた事が気に入らぬなら、いつでも出て行け。そう申し渡しているな?」
 そう告げるレヴィアスの声も、視線も冷徹なもの。ゾクリとした恐怖がキーファーの背中を駆け抜けていった。
「私はそのようなつもりで申し上げたのでは……」
「ならば、我に余計な口出しはするな。もし、万が一、アンジェリークに何か行動を起こそうというのなら、我も出るところに出てやろう」
「……」
 きっぱりと言い切られてしまえば、口をつぐむしかない。逆らいがたい圧倒的なカリスマ性。それに引かれ、レヴィアスの部下にと
望んだ
のだ。このようなことで、レヴィアスから離れるわけにはいかない。
「しかし、問題はないことはないだろう?」
 部下の一人であるカーフェイがちらりとアンジェリークを見つける。
「この館のセキュリティは万全のはずだ。特にお一人で庭に出られるレヴィアス様に危険がせまれば困るからな。外部からの侵入者は
必ず
セキュリティに引っかかるはずだ。だが、そのような反応はなかった」
 そう言いながら、レヴィアスが庭に出ていた間の記録を取り出す。そこには何の異常を知らせるサインもでていなかった。
「あらゆる熱反応や生命反応を捕らえるはずのシステムだ。俺のかなり無茶な注文をそこの坊主たちに答えてもらった甲斐があって、
外部からの侵入はかなり不可能なはずだ」
 そう言って、カーフェイが視線を向けたのは二人の少年。感情がないかのような冷めた瞳をした少年とおどおどとした感じの少年。だが、
この二人の頭脳はかなりのものであり、レヴィアスの直接の部下という立場なのである。
 覚めた瞳をした少年の名はショナ、おどおどとした少年の名はルノーという。この館のセキュリティはショナとルノーのメインで設計した
ものだ。そのセキュリティの高さに、各国の重鎮からもセキュリティの注文が相次ぎ、財閥のその手の部門の株が急上昇したのは、まだ
世間の記憶に新しい。
「でも、坊主達だって、天才とはいえ、人間なんだろ? 穴があるのかもしれないぜ?」
 嫌味ではなく、率直な疑問として言ってくるのはここにいるメンバーの中で、一番体格のいい男。ゲルハルトといい、レヴィアスのボディ
ガードの一人であった。口は悪いが、本人に悪気はなく。憎めない印象の男であった。
「ゲルハルト、失礼な事を言わないで下さい。ルノーは貴方みたいに脳が筋肉でできてはいないのですよ。傷つきやすいのです〜。可愛
そうな、ルノー。気にすることはないですからね」
「う、うん……」
「やはり、私のルノーはいい子ですね……」
 そう言って、ルノーの頭を撫でてやる。はっきりいって、彼のルノーに対する溺愛ぶりはかなりもので、その反動か、ルノーとレヴィアス
以外の人間に対しては冷徹な部分を見せる事はしばしば。

 キーファーも不幸だ……。ユージィンは……。


‖<Angel Days>‖ <> ‖ <> ||