しばらくしてから、シュークリームと各々の飲み物が運ばれてきた。
「はい、アンジェ。美味しいよ」
 シュークリームをマルセルが勧めてみるが、アンジェリークはぼんやりとそれを見つめている。
「……」
「甘くて美味しいんだよ? 好きでしょ?」
 一つ取って、口元に運んでやると、おずおずと口にする。
「……」
 両手を伸ばして、マルセルの手から、それを受け取り、残りをゆっくりと食べる。
「美味しいでしょ?」
「……」
 コクリとうなずくアンジェリークに良かったと、マルセルは笑った。
「もっと食べていいからね」
「……」
 いつもだったら、満面の笑顔で頷くはずなのに、その笑顔すらも出せないようだ。
「まったく、何をしているのだ、あやつは……」
 ゼフェルの名を出して、泣かれてしまっては困るので、敢えては出さないが、ここまで元気がないと気になって仕方ない。
「黙って置いて行かれたんだと思います。ちゃんと理由があって置いて行かれたのなら、いい子で待ってるはずですから」
 ね?と、問い掛けて、マルセルはふわふわの金の髪を優しくなでてやる。
「だが、この者はあやつから離れたがらないはずだが……」
 いつもいつも、ゼフェルにぎゅっとしがみついて居る様子が思い出される。何があっても離れない…と、その姿からは伝わり
すぎるほど伝わって居たと言うのに。ジュリアスの言葉にマルセルは軽く考えてから言った。
「たとえば、アンジェの注意が逸れた時とか……。寝ていた時とかは……」
「!」
 マルセルのその言葉に、アンジェリークはビクッと顔を上げた。瞳には再び大粒の涙が浮かび始めている。
「ア、アンジェリーク。泣くな……」
「あたりみたいですね……」
 あわてるジュリアスに対して、マルセルは困ったような顔をする。
「寝てる間にゼフェルがいなくなったのかな?」
「……」
 問いかけるマルセルの言葉にアンジェリークはコクリと頷く。そんなアンジェリークの頭をマルセルはよしよしと撫でてやる。
「大丈夫だよ? オスカー様が今探してくれているから、ね?」
「すまぬな、マルセル……」
 マルセルがいなければ、自分はこの小さな天使を前にして、硬直して何もできなかった。そう実感して、礼を述べるジュリアスに
マルセルは緩やかに首を振る。
「いえ。僕もお兄ちゃんやお姉ちゃんにこうされてましたから。だから、アンジェの気持ちが何となくわかる気がして……」
 末っ子でしたから、と言葉を添えて。こんな風にジュリアスと話すことは滅多にない。怖いとばかり思っていた人の意外な一面。
それも、嬉しい方向で、だ。不器用で優しい人ということ。それがとても嬉しかった。

マルセルは動かしやすいなぁ……。つ~か、マルセルいなかったら、大変でしたな、ジュリアス。

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