執務中は極めて穏やかな時間が過ぎて行く。守護聖の力なんてとか、役割なんてとかいう反発心は今は
霧散している。執務中は小さな天使に構われることがないからだ。
『昼食の時間にはいらっしゃい。アンジェリークの分とあなたの分の昼食を用意していますから。もちろん、
お茶の準備もね』
 にっこりとディアは言ってきたけれど、これくらいはさぼっても罰は当たらないはずだ。ディアの作る食事は
美味しいが、頭の上で天使がぱたぱたと羽ばたいているのはどうかとも思う。
「買いおきはしとくもんだな……」
 執務室の引き出しの中にはジャンクフードが詰まっている。こっそりと設置したミニ冷蔵庫にはミネラル
ウォーターもある。
(ま、そのうちに抜け出して…と……)
 天使がいるからおとなしくしていると油断させておくのも一つの手だ。計画は念入りに練る必要がある。
 だが、そんなゼフェルの思惑を現実はあっさりと無視をする。
「ゼフェル! お昼だよ〜!」
「マルセル?」
 昼食時間にきっかりに現れたマルセルにゼフェルは迷惑そうな顔を隠せない。
「何だよ、俺は昼はいらねえぞ。そう言っといてくれ」
「そういうわけにはいかないよ。ディア様もアンジェも待ってるんだから」
 マルセルの説得にもゼフェルは顔をぷいと背けるだけだ。
「悪いが、食欲はないしな。食えないんじゃ、仕方ねえだろ?」
「もぅ、ワガママ言わないの〜」
 そういって、ぐいぐいとゼフェルの腕をつかんで引っ張るマルセル。
「こら、離せよ!」
「やだ! アンジェが待ってるんだよ? ぱたぱたって、羽根音させて。ゼフェルのところに行きたいの我慢
して、ディア様のところで待ってるんだから〜」
 園芸少年は見た目よりも力はある方だ。ゼフェルが振り払おうとしても、振り払えない。
「おいおい。坊やたち。廊下まで声が響いてるぞ」
 呆れたような声が頭上から降りかかる。当然、二人よりも身長の高い人物である。炎の守護聖、オスカーだ。
「げ、オスカー」
「オスカー様」
 二人の様子をやれやれといった表情で肩をすくめるオスカー。
「二人とも、小さなレディが切なそうな表情で待ってるぜ。男として、それは問題じゃないか?」
「……たらしにいわれたかねぇよ」
 ボソッとゼフェルがいっては見ても、気にする人物であるはずがなく。
「男をエスコートするのは俺の主義じゃないが。小さなお嬢ちゃんが待ってるしな」
 そういうと、オスカーはゼフェルの腕をぐいっと掴んだ。
「……うわっ」
「オスカー様?!」
 ゼフェルをそのまま引っ張って、部屋を出て行こうとするオスカー。
「マルセル、ご苦労だったな。ディアに俺も招待されてるんでな」
「あ、はい!」
 オスカーの真意を知って、マルセルの顔が明るくなる。自分では無理でも、オスカーならゼフェルを引っ張って
行ってくれるのだ。
「離せ〜」
と、悪態をつくゼフェルを引っ張ってゆくオスカーに、マルセルは嬉しそうについていった。

ゼフェル、哀れかも……(今更、か)

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