ゼフェルの屋敷には使用人は数人しか置いていない。あまり家の中に人がいるのは好きではないのと、身の回りのことは
できることは自分でするし、できないことを任せるだけだからだ。そして、激昂しやすい性格の主に使えているので、使用人
たちある程度のことにも動揺はしない、人格ができた人物ばかりだ。そう、ある程度のことまでには……。
「ゼフェル様、お帰りなさいませ……」
主の頭の上に乗っかっている小さな天使の姿に執事役の青年は一瞬固まりかけたが、普段の落ち着きを取り戻して、主人を
迎え入れる。ここは聖地で。何があっても不思議でないからだ。
「お客様ですか?」
「いや、違う。こいつはアンジェリークってんだ。まぁ、事情があって、ちょっと預かる羽目になってな。深くは追求するな。とり
あえず、俺とこいつの分のメシ。何食うかはわかんねぇけど、俺と一緒のものを食わせるわけにはいかねぇからな」
「かしこまりました」
了承の礼をとる執事の青年をアンジェリークはきょとんと見つめている。やがて、青年が顔を上げ、目が合うと、にっこりと
笑顔を見せる。
「♪」
「どうも、初めまして、アンジェリーク様。私はこの家の執事です。何か用があるときにはお申し付けください」
さすがはプロというべきなのか。思わず、ゼフェルは心の中で拍手を送る。
「こら、家の中くらいは頭から降りろって」
軽く頭を揺さぶると、アンジェリークは大人しく離れる。パタパタとゼフェルの後ろを飛んで回る姿はとても可愛い。たとえは
悪いが、子犬が懐く様によく似ていて、何だか微笑ましい。
「しかし、彼女の食事は離乳食がいいんだろうか?」
しばし、そんなことで悩む執事の姿があった。そして、料理人たちも同じように悩んでしまうことになったのは言うまでもない。
一方、自室に戻ると、ゼフェルはアンジェリークに自分のベッドを示す。
「とりあえず、お前の寝床はそこな!」
離れたがらないことは百も承知しているので、せめて寝る場所くらいは別々にしたい。アンジェリークにベッドを譲って、自分は
ソファかハンモックで寝るつもりだ。そんなことを考えていると、アンジェリークは部屋の中を勝手にパタパタと飛び回り、手近な
ものに触ろうとする。
「こら、危ないから、勝手に触るな!」
慌てて、ゼフェルはアンジェリークを抱き寄せる。この部屋には手作りのメカや精密機械などが置いてあり、下手に障られて
壊されるのはまだしも、怪我でもされたら怖い。中身は本当に見た目どおりの赤ん坊と変わらない。興味があるものには触り
まくりそうだ。
「紐でくくりつけたほうがいいんじゃないか……」
もしくは籠に入れて隔離するべきなのか。本気で悩んでしまいそうになる。そんなゼフェルの悩みもよそに、ゼフェルに抱っこ
してもらって嬉しいのかアンジェリークはニコニコと笑顔を振り撒いている。そこには悩みも深い考えもまったくない。
「人に気も知らないでなぁ……」
「?」
あどけなく首を傾げるアンジェリークのその様にきついことも言えず、苦笑をこぼすしかできないゼフェルであった。
ゼフェルの不幸はまだまだ続きます……。
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