「こ、こいつ……」
 あれほど、急いで走ったと言うのに、振り切れなかった事にゼフェルは愕然とする。小さな天使はそんなゼフェルに構う
ことなく、ゼフェルの頭の上で無邪気に、悪く言えば、脳天気に笑っている。
「それ、どうしたのさ?」
「俺が知るかよ!」
「でも、あんたに懐いてるし」
 そう言いながら、オリヴィエは小さな天使を覗き込む。ゼフェルの頭の上なので、目線も近い。
「♪」
 目が合うと、にっこりと笑顔を振り撒いてくる。
「…可愛いね」
 あどけなく笑う天使に悪い気はしない。どう見ても、この笑顔の中に危険は感じないのだし。
「本当に原因を知らないの?」
「知るかよ……。突然、目の前に現れたかと思ったら、懐いてきやがって……」
「うん。すっかり、あんたの頭の上を気に入っているようだしねぇ……」
 しっかりゼフェルの頭にしがみついている。何度、頭を振ろうと離れようともしない。
「おいでよ。その頭じゃ、ツンツンして、痛いでしょ?」
「余計なお世話だ……」
 オリヴィエが手を差し伸べて見せるが、小さな天使は首を振って離れようとしない。恐らくは先程ゼフェルに置いていかれ
そうになったからだろうが、オリヴィエが事情を知るはずもない。軽く苦笑混じりのため息をつく。
「ルヴァんとこ行こ。この子の正体がわかるかも、だよ?」
 聖地の生き字引であり、自分のお目付け役の名をだされ、ゼフェルは顔をしかめる。
「ぜってーやだ」
「原因を調べるためでしょ? わかんなかったら、一生そのまま離れないかも、ね」
「う……」
 現実を突きつけられれば従うしかない。おとなしくその言葉に従う事にしたゼフェルであった。

 だが、ルヴァのところのいっても、現実が変わるはずもなかった。
「わぁ、可愛い!」
「げ……」
 ルヴァの部屋に行くと、ちょうど書庫の整理を手伝っていたマルセルがいた。ゼフェルが入ってくるなり、駆け寄ってきた。
「この子、ゼフェルが作ったの?」
「……。馬鹿、おまっ、何考えてんだよ!」
「?」
 真っ赤になるゼフェルにマルセルは首を傾げる。
「この子、ゼフェルのロボットじゃないの?」
「……そういうことかよ」
「……?」
 ますますわけがわからないという顔をするマルセルの肩をぽんとオリヴィエが叩く。
「あんまり、考えない方がいいよ。それに、ゼフェルがこんな可愛い子を作れる粋な性格じゃないでしょ?」
「はぁ……」
 わけがわからないままにマルセルは頷く。
「で、どうしたんですか、その子は……」
「知るかよ! 突然、目の前に現れたと思ったら、懐いてきやがったんだからな……」
「そうなんですか? それはよかったですねぇ〜」
「よくねぇよ!」
 どうも、ルヴァとはテンポがかみ合わず、ゼフェルの苛立ちは募る。しかも、このペースに乗ってしまえば、お終いだ。
「ルヴァ、あんたさ。何かわかる?」
「そうですね……。時の精霊や手紙の精霊とはちょっと違いますし……。それに、この子には……」
 言いかけた言葉を飲み込んで、ルヴァは考えこんでしまう。
「心当たりあるの?」
「確信ができませんから。今は口にはできません。それより、丁度、キリがいいとこだったんですよ。
お茶にしませんか?」
「ちょっと待てよ!」
 あっさりとお茶に話題を持っていかれそうになり、慌ててゼフェルは叫ぶガ、ルヴァは気にする
様子もない。
「美味しいお菓子もあるんですよ〜」
 そう言って、ルヴァは小さなカップケーキをゼフェルの頭上の天使に差し出すと、手を伸ばして、
受け取ろうとする。その瞬間、ルヴァは小さな天使をゼフェルの頭上から引き離した。
「……お?」
「とりあえず、お茶の時間に頭の上にいるのはお行儀が悪いですからねぇ〜」
 穏やかな笑顔で天使に言い聞かせると、コクコクと頷いている。
「……」
 もしかしたら、自分の教育係には逆らってはいけない何かがあるのかもしれない、聖地に来て、はじめてそんな事を思って
しまうゼフェルであった。
「ルヴァ様、僕にも抱かせてください」
「そうですねぇ。お茶を入れている間にお願いできますか?」
「はーい」
 5人兄弟の末っ子であり、聖地でも最年少の少年は、自分より小さな存在に瞳を輝かせる。
「わぁ、可愛い。それにふわふわの髪。それに柔らかいんですね」
「ホント、ぷにぷにしてるね〜」
 鮮やかに寝入るアートされた爪で天使が傷つかないように気を使いながら、オリヴィエは天使の頬をつつく。マシュマロよりも
ぷにぷにした感触が楽しくて、つい何度もやってしまう。
「〜」
「こら、嫌がってんだろ!」
 いやいやと首を振る天使に慌てて、ゼフェルが止めに入る。
「ごめん…て。あんたが止めるなんてね」
「う、うるせぇ! 俺は行くからな!」
 からかわれた事が悔しくて、出て行こうとしたゼフェルの背中にぴたっと何かがくっつく。恐る恐る振り返ると、小さな天使が
死にしがみついているのだ。
「あんたに置いていかれたくないんだね〜」
「……ああ、もうわかったから! 置いてかねぇから、離れろよ!」
 こくんと頷いて、天使が離れると、ゼフェルは自分こそが泣きたい気分になってしまった。


 マルセル、問題発言です。本人に自覚はないからねぇ……。ルヴァ様、贔屓は入ってますが、無意味に強い人です(^o^)丿

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