最初は軽く触れるだけのフレンチキスを何度も繰り返す。触れては離れるその温もりが面映ゆいようで嬉しい。やがて、セレストの舌が
カナンの唇をノックするようにつついてくるのに応じて唇を開くと、セレストの舌が滑り込んできた。
「ん……」
 歯列を割り、上あごの裏の敏感な部分を掠めれば、カナンの身体がビクリと震える。奥に逃げ込もうとするのを無理に搦め捕れば、
セレストの制服の襟元を掴んできた。可愛らしい反応だとは思いつつ、口にはしない。
「ふ、ぅ…ん……」
 長い口づけを終え、唇が離れると、トロリとした潤んだ瞳でカナンがセレストを見上げて来る。ゾクリ、とするほどの煽情的な色に思わず
セレストは息を飲んだ。
「セレスト……?」
 甘えるような、請うようなカナンの声。そんなささいなものにすら、誘われているような錯覚を覚える自分自身にセレストは苦笑した。
(ご自分に余裕がないからだろうな……。俺に余裕なんてあるはずがないのに……)
 カナンに触れないと宣言した手前、平然とするしかない。騎士として培った忍耐力と自制心、忠誠心で何とか抑える気ではいた。抑えが
効けば、ではあるが。
 以前とは状況がかなり違うのだ。一ヶ月以上触れなくても、平気だったのは自分の中にあるカナンに対して感情を戒めようとする意思が
あったからだ。カナンの未来のためなのだ、と。
 だが、妹のシェリルの結婚騒動の後、カナンの口からいろいろととんでもないことが飛び出して来て。そして、自分の気持ちを否定しない
ことに決めてしまえば、恋人としての想いの比重がいやでも高まる。その唇に触れて、その瞳に自分だけを映させて、その身体に想いを
刻みたい、そんな感情がセレストの中にあると知れば、どう反応するのか。知りたいようで、知るのが恐い。
「カナン様……」
「ん……」
 けれど、愛しさを込めて、その名を呼べば、潤んだ瞳で見上げて来る。そんなことで満たされるこの心を余すことなく伝えたくて。
「ん……」
 再び唇を重ねて。吐息ごとを奪うように。軽く舌を絡ませてみれば、ぎこちなく口づけに応えて来る。拙いながらにも精一杯なその姿に
ますます愛しさが募る。
 パジャマのボタンを一つ二つ外し、はだけさせるとセレストは普段陽にさらされることのない首筋に顔を埋めた。
「あ……」
 痕をつけない程度に首筋に吸い付いて。何度か肌を重ねて知ったカナンの弱い場所を辿ってゆく。
「ん、っ」
 声を出さないように唇を噛み締めている。そんな様子が可愛くて愛おしい。顔を上げ、噛み締めている唇をペロリ、と舐めて。途端に
開いた唇に深いキスを与えて。
「ん、ふ……」
 口づけに溺れている間にはだけさせた服の裾から手が滑り込む。熱くなり始めた素肌がそれだけのことで粟立った。
「お寒いですか?」
「……!」
 耳元で囁いて、軽く耳朶を噛めばますます身体を震わせて。そんな可愛い仕種に思わずセレストが笑みを零すと、カナンはセレストの
髪を引っ張った。
「痛!」
「判ってるくせに聞くな! それにお前の手は冷すぎだ!」
 ぷいと顔を背け、カナンはセレストの肩に顔を伏せた。未だにカナンの身体は抱き上げられた体勢のままでセレストの膝の上。ただで
さえ、羞恥を煽られる体勢なのだ。
「カナン様が熱くおなりなんですよ」
「……!」
 初めて肌を重ねたあの時と同じ言葉を言われて、カナンは顔を紅潮させる。
「馬鹿者……!」
「痛!」
 ポカリとセレストの頭を撲る。もっとも、力の入らない状態ではこれも可愛らしい仕種にしか映らないのだが。口にして、これ以上の怒りを
買うのはまずいので、それは言わずに済ます。
「まだ触れていてもよろしいですか?」
「聞くな、馬鹿……!」
「馬鹿はあんまりですよ……」
 クスリ、と笑ってセレストはカナンの肌に触れはじめた。

うちのセレストはどうもベッドの上では別人のようです……。

|| <BACK> || <NEXT> || <Secret Night> ||