夕食を終えると、セレストがやってきてくれた。松葉杖をつけば、ある程度の行動は取れる。歯磨きや服をだしたりと手伝って
もらうことは少しで済む。そう考えていた。
「大丈夫ですか?」
 だが、慣れない松場杖での行動はやはり危なっかしく、所々でセレストが手を貸すことになる。
「ああ、すまない」
「ご無理はなさらないでくださいね」
 セレストの態度はいつもとまったく変わらない。いつも通りに穏やかで優しい。
「熱が出るかもしれませんから、薬はちゃんと飲んでくださいね」
「言われなくてもわかっている」
 ぷいと顔を背けると、セレストが困ったように笑う。本当に何も変わらない。
「セレスト、あの……」
 言い出しかけた言葉が途切れてしまう。何をどう言えばいいのか、誘っているように思われないだろうか、とか思考がぐるぐる回る。
「う〜」
「お手洗いですか?」
「ち、違う!」
 真っ赤になって言いごもってしまえばこれである。だが、ここでちょっぷを繰り出すのもなんだかおとなげない。
「違うんですか? じゃあ、お風呂ですか? お手伝いしますよ」
「え……」
 その申し出にカナンは狼狽する。風呂に入るとなれば、当然裸にならねばならない。服ではいるような真似をする者などいない。
カナンの戸惑いを察して、セレストは苦笑する。
「ご心配なさらなくても、カナン様には不埒な真似はいたしません」
「ふ、不埒って……」
「だから、安心してくださいね」
 そう言い切ると、やんわりとセレストは微笑する。他意はない…と思う。だからこそ、ますますカナンは困惑する。
(本当に僕に触れなくて、平気なんだろうか……?)
 意識してしまうと、ソコカラ止まらなくなりそうだ。
「どうされますか?」
「でも、悪いからいい」
「悪いも何も。その足では……。他の誰かに頼むのでしたら、声をかけてきますが……」
「う〜」
 こう言われると、選択のしようがない。松葉杖で風呂には入れないのだ。
「頼む……」
 そう言って、手を伸ばすと、セレストはカナンを抱き上げる。
「こ、こら、こういう運び方は頼んでない!」
 所謂お姫様だっこな体勢にカナンは暴れて抵抗するが、セレストはそのままカナンを浴室まで運んで行った。
 服は流石に自分で脱いだが、濡れないようにと足首を保護してくれたのはやはりセレストで。ゆったりとお湯につからせてくれた
のもそうだ。
「濡れるぞ」
 騎士団の制服の上着だけを脱いだ状態のセレスト指摘する。
「いえ、着替えれば済みますし。私もすぐに入れば済みますから」
「じゃあ、今、僕と入ればどうだ?」
 別に誘っている訳ではない。カナン専用のバスルームはセレストと二人で入っても十分に広い。
「そんな無礼な真似はできませんよ」
 苦笑混じりにそう言うと、セレストはカナンを浴槽から抱き上げて、バスチェアに座らせた。
「髪を洗いますね」
「ん……」
 髪を濡らされて、長い指が適度な感覚で髪を洗いはじめる。
「痛くないですか」
「ああ」
 髪を洗い終えたら、次は身体へと。セレストの手は丁寧にカナンを洗い上げて行った。


 風呂に入っている間も、風呂からあがってからも、セレストはかいがいしくカナンの世話を焼き続けた。
「では、カナン様。私はこれで」
 ベッドに寝かしつかせてもらい、後はベッドサイドの明かりを消すだけの状態になって、セレストはカナンの元を下がる旨を告げる。
「あの、その……。色々させてすまなかったな……」
「お気になさらないでくださいと言いたい所ですけど、これに懲りて、城下に行くのを止めて下さればよろしいのですが」
「そんなことで僕がやめるわけないだろう」
 カナンの即答にセレストは苦笑しつつ、カナンの頭をそっと撫でる。
「おやすみなさい、カナン様」
 良い夢を、とそう付け加えて、セレストは部屋を退室した。一人残されたカナンはポツリと呟く。
「何だかなぁ……」
 本当に何もしてこないセレストにカナンは溜息をつく。いつもならお休みのキスの一つはつくはずなのに、と考えてから、カナンは
ブンブンと首を振った。。

セレスト、余裕あるっぽいなぁ……。


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