「……あれ?」
 目を開ければ、そこはさっきまでいた場所だった。日の高さから考えて、時間はたっていない。
「夢、だったのか……?」
 だが、頬を伝う涙の後は確かにカナンが流したそれで。
「くぷー」
 混乱するカナンと裏腹に幻獣は相変わらず脳天気にぷかぷかと浮かんでいる。カナンはそっと彼(?)をその手の
中に閉じ込める。
「もし、夢じゃないのなら、おまえが見せたのか……?」
 幻獣は召喚主の魔法力はもちろん、精神に左右されると聞く。
「だから、僕に見せてくれたのか……」
 カナンすら忘れていた大切なこと。小さな頃の出会いは覚えていても、寂しかった頃の自分に差し延べられた手の
暖かさ。記憶の底に眠っていた大切な暖かさ。
「くぷー」
 肯定なのか、否定なのか。脳天気に鳴き声をあげる幻獣から真実を図ることは難しいと判断して苦笑する。
「セレスト……」
 鮮やかなブルーのビー玉。今、このビー玉を見せたら、セレストはどんな顔をするだろうか。そう考えると少しおかしくて。
(きっと苦笑なんだろうな……)
 あの頃のセレストは今の自分よりも幼かったから。ああ言うしかできなかったのだ。今の自分たちの関係なら、まぁ、
それなりに…なのだろうけれど。
だけど、大切な想いは代わりはしないのだ。大切な存在であることにかわりはない。
「セレスト、僕はおまえが大好きなんだぞ……」
 それは昔から、そして今も変わらない。大切な宝物のような感情。まずはそこから始まる。
「くぷー」
 すりすりとカナンの手の中で寛ぐ幻獣。こんなに小さい存在なのに、カナンにとって一番大切なものを思い出させて
くれる。召喚者の心をそのまま反映するのだとしたら、召還者であるカナンよりも、セレストにも懐くはずだと一人納得して。
「おまえが僕をどう想っていようと、僕はおまえが大好きなんだからな……」
 もう一度呟いて、カナンは幻獣に自分の額をコツン、とあてた。



やっと思い出せたもの。それが何よりも大切なもので基本の形。次で最後です。

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