(僕は馬鹿だ……)
  セレストがいてくれる、ただそれだけで嬉しかったのは、セレストが大好きだったからだ。現在、彼に抱いている恋愛感情の
それでなくても、その頃から大好きで仕方なかった。
 今はもう、セレストがいるのが当たり前になりすぎて忘れていた大切なこと。
「カナン様」
 今と変わらない昔のセレストの笑顔。だけど、それが向けられているのは自分ではない。それがひどく悲しかった。過去の
自分に嫉妬だなんて、情けないこと。だが、その笑顔は自分だけのものだと、いつしか思い込んでいて。
(セレストがどう想ってるかじゃない……。僕は……)
 一緒にいることが当たり前になりすぎて、忘れていたもの。あの時に差し延べられた手の暖かさを忘れていたなんて……。
「セレスト……」
 今、その名を呼んだとしても、この光景の中にいるセレストには届かない。手の平のなビー玉は冷たいままで。それがリアル
過ぎて何だか悲しい。
 大切に大切にしまい込んだ宝物。自分だけの宝物を誰にも触れさせたくなくて。宝箱に入れて、見えない場所にしまいこんで
そのまま忘れていた。大切なものだったのに、あることが当たり前になっていたのだ。ある意味、傲慢な感情。
(僕はセレストが大好きだったのに……。今だって……)
 こんなに苦しいのは自分の想いの強さから。それなのに、こんな単純で大切なことを忘れていたなんて。
 与えられた沢山の玩具よりもこの世で一番大切な人。家族よりも強い絆で結ばれた掛け替えのない存在。
「セレスト……」
「くぷー?」
 あるはずのない返事のかわりにいつの間にか目の前にいた幻獣が高らかに声を上げる。鮮やかなブルー。それはカナンの
手の中にあるビー玉の色であり、セレストの髪の色。
「……なぁ、だから、おまえは青色なのか?」
 今も忘れることのない幻獣を呼び出した瞬間。セレストのことで頭が一杯で、それ以外のことは何も考えられなかった。
 こんなにも染まりすぎた心に気付かなくて。セレスとが思ってくれることが当たり前のように思っていたのに。自分だって同じ
くらいにセレストを思っていたのに。
「セレスト……」
 どうしようもないくらいに痛む心を抱えて、その名を呼んだ瞬間、頬を伝う一筋の雫。
「あれ……」
 無意識に流れた涙にカナンは戸惑う。
「くぷー?」
 ぽたり、とそれは幻獣に零れ落ちたその瞬間……。
「くぷー!」
「え……」
 幻獣の身体が再び光りだす。そして、カナンは同じようにその光に包まれた。

幻獣がキーではあります。そして、忘れていた大切なもの。それがキーポイントです。

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