三日ほどすると、白鳳の身体はすっかり良くなった。
「そろそろ、お暇しないとね」
元々は王族の休暇旅行だ。自分はそれに割り込んだ形になっている。いつ、カナンが旅立つかは知らないけれど、家族で過ごす時間は大切にした方がいい。自分のような生き方を華南はしないだろうけれど。それだけは、と思う。
「……さて」
旅の支度を整え、お供の男の子モンスターたちには外で待つように言いつけて。あとはスイを連れて行くだけ。今の時間なら、カナンとおやつを食べている頃。すっかりと仲良くなってしまった。
「おや……」
スイを迎えにいってみると、カナンはソファにもたれてすやすやと寝息を立てている。その寝顔はとてもあどけない。
「眠っていると、可愛いですね……」
気づかれないようにクスリと笑うと、白鳳はスイを手招きする。
「行こう、スイ。これ以上はいられないから……」
「きゅるりー」
スイをいつもの定位置、自分の肩の上に載せて、白鳳はそのまま出て行こうとした。
「…挨拶くらいはないのか。薄情者」
「坊ちゃん、起きていたんですか……」
「ん。お前の香水の香がしたからな……」
そう言いながら、カナンは起き上がった。
「…行き倒れないように気をつけろよ。スイが可哀想だ」
「私の心配じゃないんですか?」
「お前には心配したって無駄だろう?」
そう言って、カナンは笑う。だから、白鳳も笑みを返した。
「…もし、今回のことが借りだと思ったら、いつか、返せばいい」
「もう二度とあうことはないかもしれませんよ?」
「僕にじゃない。いつかどこかで誰かに返せばいい」
その言葉に白鳳はきょとんとした。
「僕のご先祖様たちは旅の途中でいろんな人に助けられた。宿を提供してもらったり、薬や食事を分けてもらったり……。そんな人たちに支えられて、僕たちの国ができたんだ。だから、僕はそれを誰かに返すのが当然だと思ってる。だって、お前のご先祖様が僕のご先祖様を助けてくれたかもしれないじゃないか。どこかで、つながってるのかもしれないぞ」
「まったく、あなたって人は……」
どうやったら、こんなに自由な発想ができるのだろうか。どうやったら、こんなに迷いなく……。
「は、白鳳?!」
気が着いたら、白鳳はカナンを抱きしめていた。他に感情を表現するすべなんて、思いつきもしやしない。
「前言撤回します。ちゃんと返しますよ……。それを名目に会えるでしょう?」
「……僕は出汁雑魚や昆布じゃない……」
「え?」
「セレストに会うだしにされるのは嫌だ」
カナンの言葉に一瞬、虚をつかれ、そしてツボをつかれたように、白鳳は笑い出した。
「何が可笑しい」
「いえ……」
なんて可愛らしくも鈍いのか。それもまた、この少年の魅力なのだろう。
「ちゃんと坊ちゃんに返します。坊ちゃんが一人でも……。だから、いつか、また……」
まるで睦言を囁くかのようにカナンの耳元で白鳳の声が囁かれる。吐息がくすぐったいと思った瞬間、首筋にかすかな痛みが走った。
「はくほう……?」
「また、ね。坊ちゃん……」
あどけなく見上げてくる少年に、白鳳は綺麗な笑みをその心に焼き付けさせて、去っていった。