静養中、カナンは白鳳の旅の話を喜んで聞いていた。元々、近隣諸国の地理の勉強もしているらしく、地図を片手にその地の特性や何やらを元に白鳳に質問を投げかけてきて。ちょっとした先生気分でもあった。
「この地は色々な鉱物が多く取れるんだな」
「ええ。ですから、その鉱物を取り扱った工芸品が多いですね。鍛冶の技術も発展しています。後、魔法属性のある石も取れますから、魔法系の武器や防具も多く取り揃えられていますね」
「なるほど……」
「鍛冶屋と直結の武器屋はお手ごろな値段ですよ」
「そうか……。お勧めの店なんかはあるか?」
きらきらと瞳を輝かせて聞いて来るカナンはとても優秀な生徒だ。もともとの育ちのよさから、鷹揚とした部分もあるが、素直な面もある。頭もいい。教えがいがあるといえば、ある。
「この地域は紛争が絶えないんだったな」
「ええ。ですから、傭兵ギルドが多いですし、冒険者ギルドがあったとしても、傭兵関係の以来が多いですね」
「白鳳は傭兵の経験はあるのか?」
「私はどちらかというと、裏で暗躍する方専門で」
「なるほど……」
そんな会話の中でも、カナンの瞳ははるか遠くを見ているような気がした。それはまだ見ぬ異国の地なのか、自分の未来なのか……。
「ぼっちゃんはやがては冒険者に?」
「ああ。そのつもりだ」
「憧れだけでなれる仕事ではありませんよ。いつだって、裏切りや罠が潜んでいるかわからない。それは身をもって体験したでしょう? あれだけではすまないかもしれませんよ」
陥れたことのある張本人が言っても説得力なんてありはしない。むしろ、笑い話である。
「それをお前が言うか?」
「……そうですね」
やっぱり、ありはしなかった。苦笑するしかない。
「でも、あなた一人の問題じゃない。あなたの家族やセレストは?」
「……家族のことは愛している。けれど、僕の夢はあきらめるつもりはない」
「じゃあ、セレストは? あなたが冒険者となってしまったのなら、セレストは管理不行届を問われるかもしれません。それにセレストがあなたについてゆくとは限らない」
「セレストにはもう言ってある。着いてくるのか、来ないのかを選べ、とな」
「……」
これには白鳳も予測はしていなかった。有無を言わさずに連れて行くのかと思っていた。いざとなったら、この少年は一人でも歩き出すのだ。
「あいつの人生はあいつのものだ。僕の生きる道を強いてどうする」
「まったく、坊ちゃんは……」
強引でしたたかで。それなのに、ちゃんと相手を最後は思いやっている。…こういう彼だからこそ、セレストが選ぶのもわかる気がした。他に、こんな存在はどこにもいないのだ。
「セレストが苦労するわけだ……」
「何だ。人聞きが悪い」
「人聞きの問題じゃありませんよ」
はちゃめちゃでいて、人間的魅力にあふれていて。…目を離せるわけがない。
「本当、かないませんよ……」
「?」
苦笑するばかりの白鳳にカナンは首を傾げるしかなかった。