そして、約束通りにセレストはカナンの部屋を訪れた。服装はいつもの制服姿。この時間にカナンの元を訪れるには、結局この格好が一番怪しまれない。
「お待たせしました……」
「う、うむ……」
 微妙な緊張が二人の間に走る。こう言う目的でセレストがカナンの元を訪れるのは初めてということもある。緊張しない方が不思議なのかもしれない。やることをやっておいて、今更ということもないかとは思いはするものの、まぁ、そういうものかもしれないとも思う。
「とりあえず、座れ。何か入れるから……」
「い、いえ。カナン様にその様なことをさせるわけには……」
 慌ててカナンを制するセレスト。
「母上の祖国から送られてきた美味しいジュースをいただいたんだ。お前と飲もうと思って……」
「ありがとうございます……」
 カナンが取り出したジュースの瓶を受け取ると、グラスに注いだ。
「乾杯、だな……」
「はい」
 グラスに注いだジュースを口にする。爽やかな柑橘系の味が広がる。
「美味しいですね……」
「だろう? だから、お前にも飲ませたかったんだ」
 自分のことのようにカナンは嬉しそうに笑った。だが、何だかこのままほのぼのとした空気に流されそうになってしまう。それはそれで困ると思ったカナンはポケットを探り始めた。
「じゃあ…セレスト……」
 カナンはあやしい薬の入った小瓶を取り出した。そのまま、自分のグラスの中に一滴入れてしまった。
「おまえも……」
「…分かりました」
 カナンから小瓶を受け取ると、セレストは自分のグラスの中に一滴たらした。
「じゃあ、セレスト……」
「はい」
 互いに視線で確認しあって、二人はグラスの中身を口につけた。
(あ、れ……?)
 一滴しか入れていないから、グラスの中身の味には代わりはないはずなのに、ひどく強い稲妻のような感覚が体を走った。
「セレスト…っ……!」
 体に走るもどかしい感覚。そして、熱くなる。それは、単なる体温の上昇ではなく、ある一定のときに起こる熱さだ。もどかしさは、その熱がもたらすもの。救いを求めるようにカナンはセレストの名を呼んだ。
「カナン、様……」
「あ……」
 セレストのカナンを呼ぶ声がどこか熱がこもっている。例えるなら、あの時のように。顔をあげ、その表情を見ると、その瞳には浴場の色が映し出されている。いつもの、優しいセレストの表情はどこにもない。
「カナン様、すみません……!」
「!」
 謝罪の言葉と同時に、セレストはカナンの腕を掴んだかと思うと、そのまま強引に口付けた。
「ん、っ……」
 いつもよりも強引で深いキス。セレストの舌がカナンの舌を強引に絡めとり、吸い上げ、口内を蹂躙する。いつもより激しいキス。けれど……。
(気持ちいい……、もっと、したい……)
 いつものカナンだったら、されるがままなんて、本意ではない。けれど、今はこの身体を走る快楽に溺れていたくて。必死にセレストにすがり付いて、自分に、セレストに気持ちの言いように計らおうとする。いつも以上に素直なカナンにセレストはますますその口付けを深めた。
 クチュリと水音が脳内で響く。口元から、零れ落ちる唾液。それにすら、快感を覚えてしまう。いつも以上に感じるこの身体は薬の薬効なのだろうか。けれど、快楽よりも前に、セレストが欲しくてたまらない。その心も、身体も。忠誠心以上に、自分を求めて欲しい。
「セレスト、もっと……」
 長い口付けがようやく終わったら、こんなことを口にしてしまう。
「もっと、何です?」
 セレストの長い足が、カナンのひざを割って、熱くなり始めているカナンの中心を煽るように動く。
「もっとキスが欲しい?」
 その言葉とともに軽いフレンチキス。それでは物足りないとわかっているはずであろうに。
「や、もっと…触って……」
 すがりつくカナンにセレストはクスリと笑った。
「そうですね、もっと、ね……」
 そう言うと、セレストはカナンを抱き上げて寝台に横たえると、覆いかぶさるように再び口付けを与えた。

…本番は次からですw

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