カナンが顔を近付けると、意図を察してセレストは瞳を閉じる。されることの方が多く、こんなに間近で
セレストに向き合うなんて滅多にない。心臓がまた一つはね上がった。
 元々が整った綺麗な顔立ちだ。瞳を閉じていても良くわかる。
(ええい、しっかりしろ、僕!)
 自分を奮い起たせて、カナンはセレストの唇に自分のそれを重ねた。
 重ねた唇は少しだけ自分の唇より乾いているような気がした。
「セレスト……」
 触れるだけで離れた口づけにセレストは曖昧な笑顔だ。まるで、カナンの出方を伺うかのように。
(むぅ、負けてたまるか……)
 してみたいと言い出したのはカナン自身だ。仕掛けるのもカナンからでなければ始まらない。
「ん……」
 再び唇を重ねる。乾いたセレストの唇を湿らせるように舐めてみると、セレストが唇をわずかに開く。
その隙間に自分の舌を滑り込ませた。
 おずおずと舌を絡めると、カナンのたどたどしい動きにセレストも応える。けれど、いつものように
セレストからは仕掛けてこない。あくまでも、カナンの出方を伺うつもりのようだ。
(むぅ…)
 何だか、挑まれているような気分だ。もちろん、カナンが言い出したことにセレストは従っているだけ
なのはわかっている。だが、負けたくない気分になった。
「ん……」
 セレストがくれる口づけを思い出しながら、唇を重ねる。
(や…何で……)
 ただ口づけを交して売るだけなのに、体は熱を帯び始める。たかが、キス一つでだ。
「ふ…ぅ……」
 唇が離れると、銀の糸が二人の間を渡る。プツリ、と切れたそれをカナンはぼんやりと見ていた。
(参ったな……)
 とろけたような瞳を見せるカナンにセレストは苦笑する。ごむたいではあるが、素直で世間知らずな
この少年に快楽を教えたのは他ならぬセレストだ。セレストの与える快楽しか知らない。だから、自分が
いつもカナンにして
いることをなぞっているのだ。たどたどしくはあるが、それはそれで趣きがあって楽しい。
「セレスト……」
 自分から仕掛けたキスだけで、こんなに瞳をとろけさせるカナンをそのまま押し倒したい衝動に駆られるが、
それではカナンの機嫌を損ねてしまうだろう。ならば、手は一つである。
「カナン様、これでおしまい、ですか?」
「な!?」
 敢えて、カナンを挑発する口調にする。してみたいと言い出したのはカナンだから、当然ひきはしないだろう。
「おしまいなわけがないだろう!」
 と、思ったとおりに挑発に乗ってくれる。
「では、カナン様……」
「……」
 躊躇いながらも、カナンはセレストの着ているシャツのボタンを外し始める。
(うわ…っ……!)
 ボタンを一つ外すごとに綺麗に筋肉のついた体が現れてくる。それだけで、ドキドキする。鼓動に押し潰される
のを振りきるように頭をふって、カナンはセレストの首筋に顔を伏せた。

頑張れるだけ、頑張らせたいみたいですね、セレスト……。

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