いつだって、翻弄されてばかりいる。相手は大人の余裕とかだから、癪なのだ。たまには、僕だって……。


「僕もしてみたい」
「はい?」
 カナンの発言にセレストは固まる。ここは騎士団宿舎の自分の部屋で。今は深夜で。部屋を抜け出してきた
主君をいさめようとして、結局はなし崩

しになって。口づけを交して、後は甘い時間になるはずだった。
「待て」
と、ベッドに横たえようとしたセレストをカナンが手で制するまでは。
「あの…カナン様……、それは……?」
 してみたい、その発言の真意はどこにあるのか。不敬ではあるが、抱く立場なのはいつだってセレストである。
自然の流れというか、成り行きかでそうなってしまったわけだ。何か思うところがあったとでもいうのだろうか。
もし、そうだとすれば、甘んじて受けるべきなのか。なし崩しにして、快楽に溺れさせるのか。悩むところだ。
「何を悩んでる?」
「え、っと。その、してみたいとおっしゃられるものですから……」
「いいじゃないか。いつもお前が僕にするんだろ? お前は余裕っぽい顔をして……。ぼ、僕だけが、その。溺れ
てるみたいで……」
 真っ赤になりながら言うその姿も、言葉も可愛くて仕方ない。自覚がないのが、また何とも言えなくて。思わず、
抱きしめたい衝動に駆られる。
「僕だって、たまには主導権を握ったっていいじゃないか」
と、言ってることはとんでもないが。
「カナン様が私にされるんですよね……」
「そうだ。おまえはいつも余裕な顔っぽいのがずるい……」
「ずるいって……」
 もちろん、セレストに余裕などあるはずがない。大切で恐れ多く、何よりも愛しい人に触れるのだから。ただ、
セレストはカナンよりも年上で、それなり

に場数を踏んでいる。カナンから見て、余裕があるように見えるのはそのためだ。
(とりあえず、どこまでとは聞かずにおこう……)
 雉も泣かずばなんとやら…だ。やぶへびはつつかないに限る。
「なぁ、駄目か……」
 未だに真っ赤なままの顔。意を決してのことなのだと初めて気付く。こういうことには幼くて、慣れていないのだ。
セレストは柔らかな微笑を浮かべ

て、カナンと向き合うようにベッドに腰かけた。
「セレスト……?」
「そこまで、おっしゃるのでしたら。最初からカナン様にお任せしましょうか」
「最初から……?」
 セレストの言葉に戸惑うカナン。
「ええ。私がカナン様にしていることを最初からカナン様が……」
 そっと、カナンの唇をセレストの指先がなぞる。
「ここから、始められますか?」
 セレストの言葉を理解すると、瞬時にカナンは真っ赤になる。だが、唇をなぞるセレストの手を取り、自分の手と
絡め合うように握った。
「セレスト……」
 もう片方の手がセレストの頬に触れると、そっとカナンはセレストに口づけた。


カナセレじゃないですよ(笑) 続きます。…さて、できるのかなぁ……。

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