情事の後、腕の中に収まる愛しい人の髪を撫でるのをセレストは好んだ。サラサラしたお日様色の金の髪。ルーキウス
王国第二王子、カナン・ルーキウスを形作るものの一つ。月明かりの中でも、その輝きは失われることはない。
今の王家の中ではカナンだけがこの髪を持つ。恐らくは先祖がえりの証。初代国王であるルーシャスも同じような眩い
金髪の持ち主だったいう。
「ん……」
腕の中で安堵したようにカナンは眠っている。
「セレスト……」
愛しい人の夢の中に自分が存在することが面映ゆいけれど、嬉しさはそれに勝る。セレストはそっとカナンの髪に口
づけを落とした。
*****
会いたい……。叶うことのない願いだとわかっていても、ずっとそう願っていた。
願いは時を越え、長い長い血脈の中に沈んで……。
*****
場内に奇妙なうわさが流れ出したのは、それから数日後だった。
「幽霊?」
訓練中に同僚の騎士の口から出た突拍子もない話にセレストは怪訝そうな顔をする。
「この城に恨みを残して死んでいくようなやつなんているか?」
国民総のんきな国である。まして、今のこの王家に恨みを残して死んでゆくものがいるなどとは考えづらい。
「いや、夜警の奴らが何人も見てるんだって!」
「枯れ木か何かの間違いじゃないのか……?」
「でも、みんな証言が一緒なんだと。白い布を翻して、青白い光を従えて……」
どこまでが本当か。翻ったカーテンがそう見えたとしてもおかしくはない。
「とにかく、今は訓練中だ。くだらない話に興じている場合じゃないだろ」
「へぇへぇ」
その場でその話題は打ち切りになったが、セレストの脳裏に嫌な予感がよぎる。
(カナン様が幽霊騒動を探ろうとか思わないように……)
それは願いであったかもしれない。しかし、世の中、そんなに上手くいくはずがない。場内でうわさになるということは必然
的に上の方にも話は流れてゆくのだ。
「真夜中に幽霊が出るそうだな」
「……」
嫌な予感というものは的中するものだと、ひたすら痛感する。
「この城に出るということは城の人間だな。ご先祖様とか?」
「カナン様、幽霊探しはおやめくださいね」
とりあえず、釘を刺すしかない。好奇心いっぱいのこの主君に振り回されること多数。
「ちぇっ」
「何が、“ちぇっ”ですか」
「だって、亡霊なんて、ロイ以外に見たことはないぞ」
「滅多に見るものではありませんよ」
あの戦いの時に出会った人物の名前にセレストは苦笑するしかない。あの時に知った、自分たちが知らなかった真実。
そして、それにかかわった人たちの想い。ルーキウス王国600年の歴史の重さを肌で感じだ瞬間。
「まぁ、僕は夜は寝てるし。深夜だと、見れないな」
「それは何よりです」
意外とあっさりした対応。なんとなく意外だが、気苦労の種がなくなるのはありがたいことはありがたい。だが、カナンは
いたずらを思いついた子供のような顔をする。
「だから、セレスト。僕の昼寝に付き合え」
「カ、カナン様?!」
ぱふっと、腕の中に飛び込んできて。とても心臓に悪い。こんなことで動揺するのは騎士失格なのかもしれないが、セレスト
とて男で。愛しいと想う相手の行動に反応してしまうものだ。
「カナン様……?」
声をかけるが、返事はない。すばやく、すやすやと寝息を立てている。こんな風に寝入ってしまうのは幼少の頃以来だ。
何かがひっかかる。眠れない、そう言っていたのはつい最近で。一緒に夜をすごしたときはよく眠っていた。つまり、あれ
以外はちゃんと眠れていない、ということか。
(ええい、想像するな、俺!!)
余計なことまでオプションで思い浮かべ、思わず赤面する。あまり、お昼からこういうことは想像してはいけない。まして、
カナンはセレストの腕の中で安心したように眠っているのだから。セレストはカナンをそってベッドに横たえ、夕食の声がかかる
まで、その眠りを見守った。
あはは、まぁ、セレストが回想したシーンは飛ばしてます。だって、まだ裏部屋作ってないし(←作る気か……)