君色想い


 女王試験が無事に終了し、惑星の移動もつつがなく終わった。新女王の座についたアンジェリークはすべての
宇宙の民に心から迎えられた。新女王の下で…新しい時代が始まろうとしていた……。


「なんか…終わっちまうとあっけないもんだな……」
 ゼフェルの言葉にマルセルとランディはきょとんとする。
「試験のこと、ゼフェル?」
「まぁな……」
 椅子の上に胡座をかいて、あまり行儀のいい姿勢ではない。
「試験は無事に終了したし、何が不満だ? 陛下も宇宙を立派に支えておられるし。しっかりしてきたと思うけど。」
「本当。ついこの間まで、女王候補生をやってたとは思えないくらいにね。ちょっと…寂しいけど」
 懐かしむようなランディとマルセルの言葉。実際、ついこの間のことなのに、ずいぶん時間が経ったようにも感じ
られる。二人の言葉に何か考えていたようなゼフェルだが、不意に椅子から立ち上がる。

「どこに行くの、ゼフェル?」
 部屋から出ていこうとするゼフェルに慌ててマルセルが声をかける。
「メカのメンテナンスがあんだよ。邪魔したな」
 振り返りもせず、出ていったゼフェルに戸惑いを隠せないランディとマルセル。
「どうしたんだろう、あいつ……」
「寂しいのかな……。ゼフェル、なんだかんだ言って、陛下と仲が良かったし……」
 明るくて、元気な少女の存在は長い時間を生きる彼らにとっては新鮮な存在だった。彼らに新しい風を運んで
きたのだ。その風に心魅かれないものはいなかった。

「こんにちは」
 不意に耳に届く。あどけない声に二人は慌てて、周囲を見渡す。ここは聖地の聖殿。一般の人間は入ることなど
できないはずであるのに。

「君…は……?」
 いつのまにか、目の前にいる小さな女の子。その存在に戸惑う二人に幼子はにっこりと笑いかける。明るい金色の
髪にリボンがよく似合う。ゆったりとしたワンピース。大きなぬいぐるみを抱えている。

「こんなところに女の子がいるわけないし……。迷ったのかな?」
 にこにこと笑う少女にマルセルは戸惑いを隠せない。ランディは膝を着いて、同じ目線になる。
「迷子かい? お父さんとお母さんは?」
 お兄さん口調なのは小さな妹がいたせいか、板についている。
「あれ…そのぬいぐるみ……」
 ふと、何かに気づいたように口を開こうとするマルセル。だが、少女の突然の言葉でそれは封じ込められた。
「ねぇ、お兄ちゃんたち。お兄ちゃんたちは女王陛下のこと、好き?」
「え……」
 思わず顔を見合わせてしまう二人だが、次には笑顔で応えてみせる。
「ああ。尊敬してるし、大好きだよ。最近はしっかりしてて、ちょっと寂しいかな」
「うん。もうちょっと、僕らにも甘えてくれてもいいのにね。でも、そういうところも明るいところも大好きだよ」
 二人の言葉に満足そうに少女はうなずく。
「そう、良かった 」
 にっこりと極上の笑顔を見せると、少女は駆け出してゆく。
「あ…駄目だよ。お家に帰らなきゃ!」
 そう言って、ランディが追いかけようとするが、いつのまにか少女は姿を消していた。
「ジュリアス様に報告した方がいいかな……。どうした、マルセル?」

 何事かを考えているマルセルに声をかけると、マルセルはためらいがちに口を開いた。
「うん…あの子が持ってた、ぬいぐるみなんだけど……。どこかで見た覚えない?」
「ああ、あれ……。言われてみれば…確かに……。どこだろう……?」
「うん……」
 口ごもるマルセルは何かを隠している様子だが、ランディは気づいていない。二人はしばし、謎の少女の存在に首を
傾げるしかなかった。



 滝の流れる音と小鳥たちの鳴き声だけが存在する空間。メカのメンテナンスを何となく部屋でする気になれず、森の
湖に来ていたゼフェルである。だが、その手はあまり動くことはない。

(なんだかなぁ……)
 自分が苛ついているのは理不尽な感情からというのはわかる。だが、それでも、納得できない何かがあるのだ。
『わぁ、可愛い! すごい、本当にこれ手作りなんですか?』
 無邪気にゼフェルの作ったメカロボットに大きな瞳を輝かせていた少女は今は宇宙を支える絶対無二の存在になって
しまった。ゼフェルとて、寂しいと言う想いはある。そして、女王になってしまった少女はどこか彼の知ってる少女とは変
わってしまった気がするのだ。

「ったく…あの元気はどこにいったんだよ……」
 きらきらと瞳を輝かせていた少女は全宇宙の誰からも敬愛される存在になり、彼女もそれに答えようとしている。だが…
それは彼が知っている眩しさとかけ離れているような気がする。

「ねぇ、そのロボット、お兄ちゃんが作ったの?」
「え……?」
 考えにふけっていた自分を現実に戻らせたのは目の前にいる小さな少女。大きな目で興味深そうにゼフェルのメカを
見ている。

「何なんだよ…おまえ……」
 怪訝そうににらみつけるゼフェルだが、少女は気にしていない。
「ねぇ、これ、動かないの?」
 好奇心いっぱいできらきら輝く瞳。恐いものなどないように。その瞳に少しばかり懐かしさを感じる。
(こいつ……?)
 不思議な既視感。だが、少女は答えてくれないゼフェルにつまらなさそうな顔をする。
「動かないんだ…つまんない……」
「おい、この俺を誰だと思ってる! 鋼の守護聖ゼフェルだぞ! いいか、見てろよ!」
 子供相手にムキになっても仕方ないのだが…ゼフェルはメカを動かす。テクテクと歩くメカに少女の顔はたちまち輝く。
「わあ、すごい!」
「たりめーだ。言っとくけどな、パーツから作ったんだからな」
「すごいんだね…お兄ちゃん」
 尊敬の眼差しで見つめられれば、悪い気などしない。
「これを見せたのは、おめーで二人目だ。まだ改造の途中だけどな」
「空を飛べるようになるの?」
「……。善処してやらぁ……」
 少女の言葉に苦笑しつつも、なんだか悪い気はしない。少女の瞳が懐かしく思えるからだろうか。
「そういや…おまえ……。何でここにいるんだ?」
 ふと気づいた疑問。ここは聖地。こんな小さな子供が何の用もなく来られるわけがない。
「わかんない」
 あっさりと答える少女にゼフェルは頭を抱えたくなる。
「おいおい……。まったく…あいつは何してんだよ……」
 どうやら迷い込んでしまったらしいと推測する。なんらかの原因で、トラブルが起こったのだろうと考える。
「着いてこい」
 さっさと道具を片づけ、歩きだすと少女は慌てて着いてくる。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「んだよ」
 一生懸命追いつこうと少し息を切らしながら少女は話しかけてくる。
「さっき言ってたあいつって?」
「え…ああ。聞いてたのか。女王陛下だよ」
「お兄ちゃんは…女王陛下のこと、好き?」
 ピタ! と足が止まってしまう。まさかこんな子供にこんなことを聞かれるとは思っていなかったので。
「関係ねーだろ!」
「嫌いなの?」
「嫌いじゃねーよ! でなきゃ、守護聖なんてやってねえ!」
 言った後で後悔してしまう。どうして、こんな子供相手にムキになってしまうのだろうと、自己嫌悪までして。だが、
少女は……。

「良かった!」
 にっこりと笑った少女の笑顔にゼフェルは一瞬魅入られる。それは知っていたはずの笑顔。
「おめー……?」
 けれど、ゼフェルが何かを告げる前に、少女の姿は消えてしまった。

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