新鮮で大粒の苺を使ったタルトとアイスココアを目の前にして、小さな天使は幸福そうに笑う。
「たくさんありますからね、いっぱい食べていいんですよ」
 リュミエールの言葉に、幸福の笑みを浮かべて。お気に入りの場所であるクラヴィスの膝の上で大好きなものを食べる、午後の
お茶。至福の一時。幸福そうな天使を見ていると、こちらも幸福になれる気がする。そして、本当にそうなる。小さな天使はいつ
でも彼らを幸福にしてくれる。
「私の分も食べるか?」
「♪」
 クラヴィスの言葉に満面の笑顔。クラヴィスはアンジェリークに食べやすい大きさにして、口元に運んでやる。すっかり、馴染
んでしまった光景。いつもの用に当たり前に繰り返される。日常がこんなに素晴らしくなると知ったのもこの天使のおかげ。
「……ずっと、このままで過ごせたらいいですね。もちろん、私たち”3人”でね」
 しみじみと呟くリュミエール。3人の部分を強調しているのは、この場にいるもう一人を意識しての事。
「天界にお戻りになったのかと思いましたよ」
「あら。お生憎さまですわね」
 冷たい空気は変わらず。これも変わらぬ風景なのかもしれない。すっかり慣れてしまった自分自身に苦笑する。
「毎日のように訪れると言う事は天使というのはよほどお暇な種族なのですね」
「あら、アンジェリークが毎日をどのように過ごすかを確認するのも大事な役目ですのよ」
 そう、ディアがロザリアに新たに与えた任務のためである。
『人間と心を交わした天使の行く末次第で、私達の人間界との関わり方も変わります。万が一、アンジェリークが不幸になる
ことのないように見守っていて欲しいのです』
 その任務を心から引き受けたのである。視察と言う名目で、堂々とアンジェリークに会えるからだ。報告書の提出を命じられて
いるので、正確な報告書を作るという名目でこうして毎日会いに来ているのだ。そして、そのたびにリュミエールと不毛な争いを
している。
「そのように確認されずとも、アンジェリークは幸福であるのですけれどね」
「あら、天使の気持ちは同じ天使同士にしかわからないものですわ」
 そう言いながら、自分で用意したカップにロイヤルミルクティを注ぐロザリア。もちろん、これの自分で入れたもの。
「これもくれぐれも大事な任務ですの。お邪魔なさらないでいただきたいですわね」
 ピキピキ…と、周囲に空気が凍る音がするのはクラヴィスの気のせいなのか。だが、それも慣れてしまった光景。
「ずいぶんとにぎやかになったものだな……」
 以前はひっそりとした闇の空間の中が指定席だったクラヴィスにとってはとてつもない環境の変化。以前の彼に今の状況を
見せたら、避けて通るかもしれない。だが、今の彼にとってはこれこそが日常であり、大切な時間。この環境がない方が不思議
でならない。
「……?」
 ふと、気づくとあどけなく見上げてくるエメラルドグリーンの瞳。クラヴィスはフッと笑みをこぼす。
「何でもない……。おまえはそのままであればな……」
 そう言いながら、クラヴィスは大きな苺をアンジェリークの口元に運んでやる。小さな天使は素直に口を開けて、ぱくつく。
 もし、あの時にこの小さな天使を拾わなかったら、今頃はどうしていただろうか。そんなことを考えなくはない。だが、それは
考えても詮無きこと。今、ここにこうして、小さな天使がいる事実だけがある。それでいい。全てはこの天使がもたらせてくれた
幸福の時間。
「♪」
 ふわふわの金の髪は陽だまりの光のよう。その幸福な光は限りなく優しい時間をクラヴィスにもたらせてくれた。この時間を
限りなく愛しく思う。あどけなく微笑む小さな天使に、限りない優しさを秘めた笑みを向けるのであった。


 やがて、いくつもの季節が過ぎてゆき、時は巡る。そして……。
 水晶球に映る光景をぼんやりとクラヴィスは見つめる。その中に映るのは小さな天使と人間の背年の姿。
「クラヴィス!」
 金の髪の少女が無遠慮に水晶球を覗き込んでくる。だが、彼はそれを気にしない。彼女だから、許せる事だから。
「あ、その子が人間界に降りちゃった子ね……」
「かつての私とおまえの姿もこうだったのかもしれないな……」
「私、こんなに可愛かった?」
 そう言いながら、クスクス笑う少女は背中の羽根がなければ、人間の少女となんら変わらない。
「そう思うか? “アンジェリーク”?」
「そう思ってくれてるって知ってるもの」
 あどけなく笑うその表情はあの頃と何も変わらない。あれから、時は過ぎた。小さな天使と意思を交わした青年は変わらず
天使の側にいる。それは天使が望み、クラヴィス自身が強く願う事で起こった奇跡。それはアンジェリークが“女神”と呼ばれる
存在になっても変わらない。
 そう、時が流れても、幼い天使が女神へと変わっても、変わらないものが有る。互いを思い、思われる関係。それを示したのは
紛れもなく、この二人なのだから。
「私ね、ずっとクラヴィスのことが大好きよ」
 そう告げる笑顔は無邪気な天使の頃と何一つ変わらない。そんな天使にクラヴィスは肯定の笑みを向けた。
 幸福な天使と青年の話はこれからも続いてゆくのであった……。 

 ようやく完結です〜。書いてる本人と一部の人には楽しかった創作かもしれませんけれど。いいの。好きなものを書きたかったし。
 この話はどちらの天使コレットに繋がるのでしょうね……。あくまでも、これは天使コレットの番外編。女神さまと”魂を共にする者”の
物語です。クラヴィスでなくても、天使リモなら、拾うよ。お菓子代はかかるだろうけどな(ーー; ) コレットの場合、アリオスかレヴィアスが
拾うもん(^。^)勝手に拾ったら、殺されるかも(>_<)

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