「お風呂がいい? ベッドがいい?」
 未だに快楽の余韻にいるむぎは依織にそう囁かれて、きょとんとした顔になる。
「お風呂……」
 身体がけだるくて、汗ばんでいて。このままベッドには入りたくないとぼんやりとした思考で訴える。
「そう? わかった」
「ひゃっ?」
 グッと圧迫感を感じて、むぎは依織にしがみつく。唇ははくはくと戦慄いている。未だに依織が中に存在したまま、抱き上げられたのだ。
「や、くるし……」
「お風呂までの辛抱だよ?」
 依織が一歩歩くのたびに中を穿たれる。足を依織に回すようにしがみつき、その圧迫感に耐えようとする。そうしなければ、身体が強すぎる快楽に追いつかないのだ。
「ふ、あぁ!」
 ようやくバスルームの手前の脱衣所にたどり着くと、依織は洗面台にむぎを腰掛けさせ、より深く腰を打ち付けていった。
「やだ、もぅ……!」
 余韻の残っていた身体は容易に上り詰めていく。達した瞬間、強く依織自身を道連れにするようにむぎの中が収縮して。依織はそれに逆らわずに己の熱を解放した。



 その後は半ば脱がされていたむぎの服を依織はすべて脱がせ、自分も服を脱ぐと、むぎを抱き上げてバスルームに入った。軽くシャワーを浴び、依織はされるがままのむぎの身体を清め、自分の身体を洗うと、むぎをまた抱き上げて、浴室に入る。
「ふぅ……」
 お湯の温かさにむぎは思わず感嘆のため息を漏らす。未だに意識は半分飛んでいるようである。そもそも、こうして二人でお風呂にはいることを恥ずかしがるむぎが大人しく依織にお風呂に入れられることからして、そうなのである。意識があれば、真っ赤になって、がんばって一緒に入らない方向に持って行こうとするのだ。(そして、それ以上に上手な依織がそれは見事に二人で風呂に入る方向に持って行ってしまうのだ)
「気持ちいい?」
「うん……」
 依織の背中にもたれ、しばしの休息なのだろう。さすがにここでは手を出さない方がいいな、と物騒なことを考える依織にもちろん気づくはずはなかった。



 お風呂から上がると、バスタオルにくるまれ、むぎはベッドルームに運ばれていく。すっかり疲れたのか、うつらうつらとしていて、無理させてしまったかな…と、堪えの効かない自分に依織は苦笑する。もう二度と本気で人を愛せないと思っていた頃の自分が見たら、どう思うだろう。きっと信じられないものを見る目かもしれない。むぎに出会って、その強さにふれることができたからこそ、自分の過去の恋愛と向き合うことができた。皇とも歩み寄ることができた。戻ることはないと思っていた歌舞伎の世界に戻りたいと本気で思うことを自分に許せたのもそうだ。この小さな身体すべてで依織を愛し、依織の時には重すぎる愛を受け止めてくれるから。
「愛してるよ……」
「あたしも、愛してる……」
 囁きかけた言葉に当然のように帰ってくる言葉。
「眠いのなら、寝てもいいよ?」
「ん〜」
 むぎはゆるゆると首を振る。そして、依織にパジャマと着替えを持ってくるようにと願う。
「むぎ?」
「だって、今日の12時がすぎるまでは、依織君のお嫁さんだもん……。寝ちゃったら、起きたときには依織君のお嫁さんじゃなくなっちゃう……」
「君って人は……」
 どうして、こんなにも可愛らしくも愛しい言葉を発してくれるのか。本当にどんな贈り物よりも、鈴原むぎの存在こそが依織にとっての何よりの贈り物なのかもしれないとすら思ってしまう。
「そうだね、12時までは僕の奥さんだ……」
 眠りの縁に落ちそうなむぎの着替えを手伝い、自分も同じパジャマを着て、ベッドに横たわる。他愛もない話をしたり、眠りに落ちそうなむぎの気を紛らわせるために顔中にキスの雨を降らせたり。甘い時間がただ過ぎていく。
「あたしね…依織君のお誕生日だから、一日奥さんやったけど……。あたしの方が幸せみたい……」
 そんな可愛いことを言ってくれる唇にお礼のキスを贈って、依織は笑う。
「そんなことはないよ。僕が一番幸せだ……。すてきな誕生日をありがとう……」
 左手に光るリングにも口づけて。そんな時間を過ごすうちに、時計の針は12時を刻んでしまう。
「時間だね……。誕生日の魔法は解けてしまった……」
「うん……。でも、王子様は迎えに来てくれるんでしょう?」
「当然だよ、お姫様?」
 依織の言葉にむぎはうれしそうに笑って。
「あたし、待ってる……」
 そう呟いて、眠りに落ちてしまう。その寝顔に依織はこれ以上はないという至福の笑みを浮かべる。
「いつかじゃなくても、今すぐにでも迎えに行きたいのだけれどもね、お姫様?」
 そう囁いて、むぎを抱きしめて、依織もまた眠りに落ちる。幸福な誕生日の余韻に浸りながら、夢の中でもたった一人の姫君を愛するために……。


……FIN


やぁーっと、終わりました。濃い一日だったね、むぎたん(笑)。そして、ごめんなさい、いおりん。誕生日創作だったのに
、いつまでかかってるんだか……。案外力が強い(瀬伊談)のは承知してます。ご、ご容赦してもらえないかなぁとびくびく
してます。読んでくださる皆様もあきれていたかと思います。なんだか、書いているうちに長くなったというか。うん。
とりあえず、いおりんを幸せに!という一心で書いたことは確かなのですが、ど、どうでしょう? 一番心配したのは、一哉の
誕生日までずれ込んだら、どうしよう…でした。しゃれにならないよ、それ……。
後日談とかは書くかどうかは……。って言うか、需要があるかどうかですなorz ちなみに、この話を書いていて一番気の毒に
なったのはむぎたんではなく、皇くんだったりします。ご、ごめんね。皇くん……。私の書く松川さんはむぎたんへの愛に沈ん
でる人だからorz



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