アンジェリークを抱いたままではエアバイクに乗れず、ゼフェルはエアバイクを屋敷に運んでくるように手配を整えてから、
マルセルの馬車に乗せてもらい、私邸へと向かった。
「お帰りなさいませ、ゼフェル様」
主を迎え入れるはずの屋敷の者たちの声がどこかとげとげしく感じるのは気のせいではなく。
「アンジェリーク様、ご無事で何よりです」
と、優しい声で気遣う様子。どう考えても、自分のことを怒っているのだろう。
「アンジェリーク様のお好きなお菓子を用意していますよ?」
「……」
その言葉にも反応を示さず、ゼフェルにギュッと抱きついてしまう。
「なんて、おいたわしい……」
言葉の一つ一つがアンジェリークに同情したものであり、ゼフェルを責めているもの。居心地が悪くて仕方ないが、自分で
招いたことの結果であることくらいはゼフェルもわかっている。だから、ここはあえて我慢する。
「アンジェ。飯、食うぜ? 俺は食うけど、腹減ってないのかよ?」
「……」
無言で首を振るアンジェリークに軽くため息をついて、ゼフェルは夕食の席へとつくことにした。
テーブルに並ぶイチゴのタルトとアイスココア。アンジェリークが大好きでたまらないもの。けれど、アンジェリークは一口
口にしただけで、それ以上は進むことはない。
「食わねえのか?」
「……」
じーっとゼフェルを見上げてくるあどけない瞳。目をそらしたくないとばかりに。
「おめーが食ってる間は俺も食ってるんだから、どこにも行きようがないだろう」
そう言って、ゼフェルが自分の食事に手をつけ始めると、アンジェリークも慌ててイチゴのタルトを食べ始めて。
「……!」
慌てて食べた成果、むせてしまうアンジェリーク。
「バ、馬鹿!」
背中をさすって、水を飲ませてやると、アンジェリークはホット一息をついた。
「ゼフェル様においていかれたくないからでしょう?」
「……わーったよ」
不本意ではあるが、食べるペースをアンジェリークのペースにあわせつつ、ゼフェルは夕食の時間をこうしてすごした。
それからもアンジェリークはゼフェルから離れたがらなかった。それは夜が更けても同じこと。
「ほら、寝ろよ。舟こいでるぜ?」
そう言ってはみるものの、アンジェリークはいやいやと首を振る。眠ってしまえば、またおいていかれる。そのことが怖くて
たまらない。ゼフェルの服の裾をきゅっとつかんで、眠いのを必死で我慢している。
「わーった」
ため息をつくと、ゼフェルはアンジェリークを抱きかかえて、ベッドに横になる。
「?」
「俺も寝るから。お前も寝ろ! いいな?」
そう言って、明りを消してしまう。真っ暗な中、何度もゼフェルにぺたぺたと触って、その存在を確認するアンジェリーク。つかれ
きって、眠ってしまうまで続けられたそれにゼフェルの胸に奇妙な痛みが走った。
ゼフェルは当分試練です
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