丁寧に身体を拭いて清めてもらえるのは、行為の後でけだるい身体には心地いい。だが、カナンはいささか不機嫌気味だった。
「どうかなさいましたか?」
「う〜」
 セレストの涼しげな声がまた腹立たしい。
「はい、お着替えです」
 新しいパジャマと下着を受け取ると、カナンは黙々と着替え始めた。
「お気分が優れませんか?」
「そう答えたら、お前は僕に触れないのか?」
「……どう思われます?」
「もう、いい……」
 プイと顔を背けるカナンをセレスト背後から包み込むように抱き締める。
「セ、セレスト?」
「自制心を抑えられなかったのと、貴方の足に負担がかからぬようにと考えたら、あんな風に抱いてしまいました。後者は建前で、
結局は前者かもしれません……」
 耳元に響く言葉に心臓が高鳴る。それ以上にセレストの言葉が心に響いた。
「僕の身体のことを考えるよりも、自分に正直に、ということか?」
「はい。従者失格ですね」
「従者としては、な。恋人、としてなら?」
「カナン様……。恋人としても失格ですよね。貴方の気持ちを思いやれないのなら」
「恋人というのは否定しないんだな」
「してほしいですか?」
「いや……」
 セレストの問い掛けにカナンはゆっくりと首を振る。
「嬉しい、かな。だから、恋人失格じゃない。僕は嫌じゃなかったし。おまえが僕を求めている証を得られたみたいで嬉しかった」
 そう告げると、カナンはセレストに手を伸ばして抱き着いて、セレストの広い胸に顔を埋める。
「どんなに乱暴でもいいから。僕を誰よりも愛しいと思ってくれるなら、僕に触れないなんて二度と言うな」
「カナン様……」
「どんなに僕の身体に負担がかかってもいい。言い訳なんかにもしない。だから……」
 顔を上げないのは紅潮しているであろう顔を見せないためなのだろう。
「駄目ですよ、カナン様。そんな風に可愛らしいことをおっしゃらないでください」
「言わなきゃ、お前に伝わらないじゃないか」
「私の自制心が持たないじゃないですか」
「恋人同士の時にはそんなもの邪魔だ」
 こうやって、抱き締めあって。思いを分かち合う時にそんな不粋な物は必要ないから。
「駄目ですよ。せめて、お怪我が完治してからにしてください。貴方の足が私のせいで悪化だなんて困りますよ」
 宥めるように背中を撫でてやる。
「身体を重ねるだけが触れ合うじゃないでしょう?」
 ふわりと羽根のような軽いキスをカナンの頬に落とす。
「こういうのも、触れ合うことですよね?」
「ん……」
 確かに伝わる”愛しい”という感情。
「怪我が治るまでおまえはそれでいいのか?」
「自制しますよ」
「風呂場で僕が誘ったら?」
「……まぁ、それなりに」
 言いごもるセレストにようやくカナンは真っ直ぐにセレストを見上げた。
「なら、そうしろ。僕の怪我を建前にするんじゃないぞ」
「カナン様!」
 困ったような顔をするセレストにカナンは勝ち誇ったように笑う。
「滅多に見られない振り回される僕を見せてやったんだから、これくらい納得してみせろ」
 そう告げると、楽しそうな顔を浮かべたまま、カナンからセレストに口づけた。

とりあえず、これで完結です。セレスとが逆切れしたところで、やっぱり理性的な面で触れないように、と考えていて。それが納得できない
から、カナンは絡んで。…そうです。カナンが我慢ができないのです。で、まぁ、セレストも健康な男子ですから。はい。しかし、これ、一日で
書きあがる量じゃなかったですね。6月の私は何を考えていたのか……。ちなみに、この話には後日談があります。ええ、裏です(爆)

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