そして、数年の月日が過ぎ……。
「カナン様、お茶にしませんか?」
「もう、そんな時間か」
 お茶の準備をしたセレストが入ってきて、カナンは目を通していた魔道書から、顔をあげた。
「今日はシェリルが蒸しパンを作ってくれたんですよ」
「おお。そうか」
 妹姫のシェリルはパンを焼くのが趣味である。時々、おやつパンを作ってくれるのだ。
「じゃあ、ルーとスイも呼ばないとな」
「ええ。そうですね」
 まったりとした会話を楽しんでいるはずだった。だが……。
「おやつ〜」
と、窓から、金髪に緑の瞳をした少年が入ってこなければ。
「ルー! また、窓から入ったりして……」
「だって、おやつの時間でしょう? 時間は守りなさいと父上と母上はおっしゃったでしょう?」
 ルーと呼ばれた少年はニコニコと答える。
「だからといってな、ばれるように入ってきてどうする! ばれないようにするのが大事なんだぞ」
「カナン様、そういう問題じゃありません」
 幼子と何かが違う会話を交わす妻を抑えて、セレストは少年の視線に合わせるためにひざをついた。
「ねぇ、ルー。窓から入ってくるってことはそこの木に登ったってことだね? 落ちて、怪我をしたら危ないよ? ルーが
痛いだけだと思うけど、お父さんのここも痛くなるよ?」
 そう言って、自分の心臓をセレストは指し示した。
「…僕のここも痛くなる」
 ボソッとカナンが言うのに、セレストは笑みをこぼした。
「お父さんとお母さんも痛いからね? ルーはそれでもいい?」
「……ごめんなさい」
 ポツリと素直に謝る幼子に二人は顔を見合わせて笑った。
 奇跡のような存在の幼子は魔法使いによって命を与えられた、あの時の赤ん坊。すくすくと成長して、ヤンチャ盛りだ。
光を集めたような金の髪と顔立ちはカナン譲り、鮮やかなエメラルドグリーンの瞳と運動神経はセレスト譲りらしい。名前は
ルーシャスとつけられた。ルーシャスが生まれたその直後、実家に帰って、色々とご先祖のことを調べたら、魔法使いに
関して、遠いご先祖が書いた記録があった。そのご先祖の名がルーシャスであり、魔法使いに協力させて、幻獣に命を
吹き込んだらしい。そのため、ご先祖にあやかって、ルーシャスと名づけたのだ。
「そう言えば、スイは?」
 お守役の青年の名を出すと、
「あ〜。ここにいた〜」
との絶叫。もはや、これもある意味見慣れた光景だ。あの後、スイがルーシャスのお守をすることになってしまった。ルー
シャスが懐いて離れなかったのだ。人間に戻れたきっかけがルーシャスであるのと、元々仲良くしていたこともあり、その
役目を引き受けてくれた。…そこから、彼の苦労が始まったとも言えるが。
「あ、スイ君。ちょうどいい。おやつの用意ができてるよ」
「あ、ありがとうございます…じゃなくて! ルー!」
 すたすたと幼子に近づくと、スイはルーシャスの頬をギュットつまむ。
「ひたひ(痛い)〜」
「危ない真似はしないといったよね? あれは嘘だったんですか?!」
 じたばた暴れる幼子に厳しい懲罰。両親が甘い分、ちょうどいいのかもしれない。何せ、この幼子はヤンチャ盛りで。
カナンが実家に里帰りした時には子分たちはもちろん、義母であるナタブームにまで、勝利して見せた。もっとも、白鳳には
かなわなかったが。そのせいか、白鳳の前ではかなりいい子であると、スイが嘆いて見せたのは先日の話。
「とりあえず、今日も平和ですね」
「そうだな」
 すっかりとお茶の準備も整った頃にはスイのお説教も終わっていて、シュンと反省した幼子とスイもテーブルにつく。
 美味しいお茶とお菓子があって、大好きな人と食べるのはすごく幸せな時間である。
「幸せですね」
「当たり前だ」
「そうですね」
 らぶらぶな会話を第三者の前でやってのけるくらいには、相変わらずのらぶらぶぶり。
 愛する人と、大切な家族と作ってゆくのは幸せな時間。それはきっと永遠に続くはず。


 そして、この国にはいつしか願い事をする時に、白牛乳とアンパンをお供えするようになったとか、ならないとか。

シンデレラの続編というか、幸せな結末を考えてたら、こうなりましたw とりあえず、みんな幸せで。幻獣を二人の子供にする…と、
いうのはどうしても譲れないネタで。ご先祖様の話も書きたくなりましたw …ええ、ロイ×ルー前提で。

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