何処までも青い晴れた空に白い雲。
「こんなにいい天気なのに、篭の鳥だなんて、僕は不幸だ……」
 ふて腐れたように呟いて、カナンは外を眺める。
『いいですか、くれぐれも城下に抜け出したりしないようにお願いします』
 昨夜、退室する時に痛いほどに釘を刺されて。当の本人は野外演習で明日までいない。
「自分は外に出ていて、僕に外に出ているなんて狡いじゃないか……」
 もちろん、うるさい従者がいない今こそ、抜け出すのには好機なのかもしれないけれど。やはり、セレストの目を盗んでと
言うことにスリルがあるのだ。セレストが聞けば、確実にため息がこぼれることは間違いない。
「あいつは僕のことを本当に好きなんだろうか……」
 口を開けば、お説教が多くて。生真面目すぎるほどに生真面目で。心配性で。頭も固い。だけど、それはカナンを心配する
心からということはわかっている。第一、愛されていなければ、夜に…(自主規制(笑))なこともしてこないはずだ。あの結婚
騒動から、一応は彼も積極的にはなってくれているのだから。
「僕のことが好きなら、もう少し、自由にさせろ」
 本人が聞いたら、間違いなく自由すぎますとの反論が帰ってくるだろう。カナンのこの言い分では、セレストのため息の数は
確実に増えている。
「本でも読もうか……」
 図書室から本をとってきてもいいが、たまには古い本を読んでみようと本棚に向かう。カナンの部屋の本棚には本が多いが、
特に多いのが冒険ものだ。その中でもルーキウス王国を建国したご先祖様である、ルーシャスの冒険記が一番のお気に入り
であった。
 どうせ、今日は出て行くつもりはないし。こういうのもいいかもしれない。
「そうだ、あの本は……」
 探してみるが、なかなか見つからない。少しばかり不健全な娯楽小説だったため、セレストに取り上げられ層になったので、
あわてて隠したのだ。
「探してみるか。タンスや壷、本棚を漁るのも冒険者の基本だな」
 多少の冒険者ごっこも交えて、この際、普段探さないようなクローゼットの裏だとか、ベッドの下だとかを探って見る。
「あれ……?」
 見つかったのは熊の縫いぐるみと綺麗な細工が施された小箱。
「何が入ってるんだ……」
 何となくワクワクする。宝箱を開ける心境に近いかもしれない。だが、中身は意外なものだった。
「ビー玉……?」
 宝箱の中に鎮座しているのは鮮やかなブルーのビー玉。
「なんで、こんなものが……」
 どちらかと言えば、ビー玉を入れていた細工箱の方が価値がありそうだ。どうして、いかにも大切なものなのだとばかりに
過去の自分はしまっていたのだろう。自分でもよく理解できない。
「ああ、でも……」
 軽く意識を集中させると、ポンと音をたてて、幻獣が現れる。
「くぷー」
「やっぱり同じ色だ」
 鮮やかなブルーの幻獣と手の平のビー玉。涼しげな感じが何だか良い。
「くぷー」
 ふよふよと幻獣は部屋を漂っていたが、突然部屋の外に出て行ってしまう。
「くぷー」
「おい、待たないか!」
 カナンの制止も聞かずに幻獣は飛び出してしまう。誰かに見られたら厄介だ。カナンは慌てて後を追いかけた。
 ふよふよと漂う幻獣を追い掛けて行った先は裏庭の片隅。ここまで誰にも見つからなかったことにカナンは安堵の溜息をつく。
「なんだって、こんな所に……」
「くぷー」
 何を考えているのか、恐らくは何も考えていないのか。脳天気な表情でふよふよと浮かんでいた幻獣であったが、ゆっくりと
カナンに近づいて来る。
「え……?」
 コツン、とカナンの額に幻獣がぶつかる。その瞬間、カナンはまばゆい光に包まれた。

 さて、始まりました。厳重の目的は? カナンの今後は? それはあなたの心の中で……。(違うって)



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