まずは、カイラバ画伯のことを報告しようと、ゴローの攻防に向かう途中で、手土産に水羊羹を買ってもっていくと、ゴローは歓迎してくれた。ヒライナガオでカイラバ画伯に会ったことや、カレー作成のエピソードを話すと、『あの人はああいう人だからなぁ』という答えが返ってきた。
「今度、俺にもカレーを食わせてくれよ。普通の材料でいいから」
「うん。もちろんだ」
 その会話を傍で聞いているセレストは『また抜け出すんだろうなぁ…』と思ってしまったことは言うまでもない。
 その後、スキル屋に行って、マリエルさんににゃんじゃらしをプレゼントすると大喜びされてしまった。そして、じゅりいへの変わらぬ愛の話を聞かされもしたが、萌流という人物に一月半の間接したということもあり、とても生暖かく話を聞いていられたことは言うまでもない。
「あ、これ。たいしたものじゃないけど。美味しいから飲んでみて〜」
 と、柚子茶という名の柚子のママレードをもらった。
 後はファーブル・ラボに行って、ファーブル氏が普通の人であることに安心したり、サメライ屋に行ったり。数時間で色々回ってしまった。
「おなかがすいたな……」
 育ち盛りは食べ盛りである。空腹を訴える恋人にセレストはクスリ、と微笑んで。
「私の知ってる店でいいなら、美味しいオムライスがある店がありますが?」
「そこでいい。お奨めの店なんだろう?」
「はい」
「なら、そこがいい」
 嬉しそうに言うカナンにセレストに愛しげな笑顔を浮かべた。


 昼食を終えると、雑貨屋などを冷やかしで見て回り、屋台のクレープを食べたり。普通の恋人たちのようなデートにカナンは嬉しそうにはしゃぎ、それをセレストは愛しく思う。だが、時計の針が三時を過ぎた頃、不意にカナンは言った。
「セレスト、そろそろお前の家に戻らないか?」
「いいんですか?」
「夕方には迎えにくるからな。慌てて帰り支度するのもなんだし」
 寂しそうにカナンは笑う。楽しい時間にはやがて終わりが来る。それはわかってはいるけれど、切なくもある。
「わかりました」
 セレストが頷くと、カナンはセレストの腕にしがみついてくる。
「カ、カナン様?」
「今日はデートだろう?」
 慌てるセレストに対し、カナンはしっかりと腕にしがみついて、離れなかった。


 結局、そのままセレストの自宅まで戻り、マリエルにもらった柚子茶を飲みながら、世間話をしつつ、まったりと過ごす。けれど、時間は確実に過ぎてゆくもので。いつしか、窓の外から夕日が差し込んできていた。
「もうそろそろ、迎えが来るな。今日はありがとう。楽しかった」
 そう言って、帰り支度をしようとするカナンであったが、その動きは以外にもセレストによって止められてしまった。
「セレスト?」
 不意を疲れる形で背後から、抱きしめられる。その腕の力は決して強すぎるものではなかったが、魔法がかかったようにカナンは硬直してしまった。
「帰したくありません……」
 背後から、抱き締められてそう囁かれて。途端に、カナンは硬直した。こんな風にセレストが仕掛けてくるなんて考えてもみなかった。
「で、でも、迎えが来るから……」
 まるで、昔にリナリアに聞かせてもらった物語の主人公の気分だ。彼女はガラスの靴を残していけたけれど、自分には何が残せるだろう。
「お嫌、ですか……?」
 耳元で甘く囁かれる。ずるい、と思う。こんな風にされたら、ずっとそばにいたくなる。離れたくなくなるのに。
「嫌、じゃない……。僕だって、お前の側にいたい……」
 恋人同士として過ごす時間はあまりにも短すぎて。本当は終らなければいいのに、なんて考えていた。セレストが同じように考えていてくれてた。それがどんなに嬉しいか。
「側にいてください。帰らないで……」
「うん……」
 結局、この恋にドップリと溺れているのはお互い様と言うことだ。切なくも甘い声で囁かれれば、カナンに逆らう術があるはずもない。
「でも、どうやって言い訳する?」
「カナン様がお疲れで、眠ってしまったのを起こすのが可哀想だから、じゃ駄目ですか」
「むぅ。それじゃ、僕が子供みたいじゃないか」
 抗議の声には不機嫌の色はない。二人でもっと甘い時間を共有するためには、一番の言い訳だ。
「お詫びに夜明けのコーヒーを美味しくいれますから」
「まぁ、それなら許してやる」
 わざとらしく鷹揚にカナンが答えると、互いにクスリと笑いあって。カナンが身じろぎすると、セレストは腕の力を緩めてくれる。セレストのほうを振り向くと、背伸びをして。セレストは少しだけかがんで。二人の唇がゆっくりと重なった。

この話は5月のイベントで作ったコピー本の別バージョンなんですが。コピー本はセレストがイケイケだったんで、これはあかんやろ…と
あまあまにしてみました。つーか、何で、こういう話を最初に書かなかったんだろう……。脳内麻薬がいけなかったんですね〜。

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