『お前の休日を僕にくれないか?』
 ヒライナガオから帰還して、色々と報告等を済ませて、カナンの部屋で一息ついてから、カナンはセレストにそう願った。
「休みを…ですか……」
「父上に許可を頂いた。お前の返事さえよければ、僕の願いは叶う」
「また、事後承諾ですか……」
 軽く溜め息をつく。悪い人ばかりではないが、こうも事後承諾が多いのは、この王家特有のものだろうか、と。
「駄目、か?」
 上目づかいのおねだり。昔から、変わらない癖。カナン自身は無意識だろうが、セレストには逆らいがたいものがあって。
「カナン様はどうなさりたいのですか?」
 ダンジョン探索とかそういうものだったら、どう言って、説教しようかと考えていたセレストにカナンは自分の願いを告げた。意外な言葉に、セレストは少しだけ戸惑い、可愛らしさにめまいがしそうになった。


 そして、数日後。しっかりと願いを叶えるべくセレストはカナンに休日を捧げることになった。
(もう、そろそろだな……)
 実家に帰っていたセレストは身支度を整えて、時計を見て、そわそわしている。ここに家族がいたら(特に父親であるアドルフ)、『何をそわそわしてる』とか、言われそうなものだが、両親と妹はドラク温泉に二泊三日のご招待で遊びに行っている。結婚騒動での協力のお礼と結婚が決まったと報告に行った時に『お父さんとお母さんを連れて、親孝行したらいいですよ』と招待券をくれたのだ。家族4人分をもらったのだが、せっかくだから、自分ではなくエリックとの方がいいだろうと、セレストは辞退した。アドルフは憮然としていたが、『いいわよ、お父さんはおにいちゃんとお留守番ね』のシェリルの一言で、しぶしぶ承諾して。セレストはお留守番の立場なのだ。
(これも見越してたんだろうな……)
 苦笑しつつも、家族よりも恋人のほうがやはり優先したくなるのが、恋人を持った人間の正しい姿、だとは思う。やがて、玄関の呼び鈴が鳴ると、セレストは家の中にもかかわらず、もうダッシュで玄関に向かった。
「おはようございます、副隊長」
「おはよう。ご苦労だったな」
 恭しく敬礼をする部下にねぎらいの言葉をかけると、セレストはその背後にいる人物に視線を向ける。
「おはようございます、カナン様」
「うむ。おはよう、セレスト」
 にっこりと笑顔を向けるカナン。その身にまとう衣装はいつもの場内服ではなく、変装用によく使用するパーカーとジーンズ、そしてめがねといったいでたち。
「では、私は失礼します。夕方には迎えにあがりますので」
「うむ。頼んだぞ」
 去っていく兵士にねぎらいの言葉をかけると、カナンは再びセレストに笑顔を向けた。
「とりあえず、立ち話もなんだから、入れてくれないか?」
「はい。何かお入れしますね」
「うん」
 玄関から、家の中に入ってもらう。扉が閉まった瞬間、カナンはいたずらっぽくセレストに話しかける」
「デートだぞ?」
「はい、デートですね」
 カナンの言い方の可愛らしさに言葉を反芻してやると、カナンは満足そうに頷いた。その様子に数日前の会話がよみがえる。

『僕とデートして欲しい……。兄上には城下をお忍びするのに、セレストを伴いたいからとお願いした……』
『デ、デートって……』
『その、恋人同士なのに、そういうことはその、なかなか出来ないし……。お忍び…と言うことなら、出来るだろうし……』
『それなら、普通に私の休日でなくても……』
 公務としての言い訳ならいくらでも聞く立場だ。だが、カナンは首を振った。
『僕はお前の休みの日にデートしたいんだ。そりゃあ、この形でも休み返上になってしまうけど……。お前の公務じゃ嫌だ……』
『カナン様……』
 結局はセレストはカナンのその言葉に何よりもの愛しさを感じてしまって。承諾してしまったということになる。リグナムにはヒライナガオで、いろいろな人に接したので、ルーキウス王国の城下の国民と普通に接してみたいというお願いという形にしたという。弟王子に甘い兄はヒライナガオでの活躍のご褒美もかねてそれを承諾した。セレストが案内をするという条件ということになり、セレストの家までは護衛をつけて、カナンが向かうという形になった。


「で、どうして、私が行ってはいけなかったんですか?」
 本当は迎えにあがるつもりだったのだが、カナンが嫌だといって、セレストはカナンが来るのを待っていた状態だった。
「僕が誘ったんだからな。それに、城に迎えに来てもらうんだったら、お前はラフな格好はしてくれないだろうからな」
「そりゃあ、そうですね」
「せっかくのデートだ。お忍びという名の名目でも、普段着のお前が見たい……」
 …何というのか、本当に可愛らしい。これを本人に直接言うと、チョップが飛んでくるので、心の中にそっととどめておくセレストであった。
「じゃあ、このお茶を飲んでから、城下に出ましょうか? 行きたい所はありますか?」
「そうだな…とりあえずはゴローのところに。カイラバ画伯の話とかしたい。あと、キャラ屋に行ってだな、ファーブル氏にキャラ屋の生態について聞きたいかと……」
「……ファーブル氏は萌流さんとは一緒にされないほうが……」
「だから、安心するために行くんだ。キャラ屋がみんなああいう性格とは思いたくないしな……」
 何だかんだと、一日は短い。しっかりと計画を立てあう二人であった。

…続きます。ああ、もう、馬鹿っプル全開ですね。本当はこういう話を書くつもりだったんだよね……。

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