自分と時を同じく生まれた天使、アンジェリークを見つけたロザリアはある程度の確認を終えたので、一度引き上げることに
した。(リュミエールの妨害が厳しかったこともある)
 天界に戻ると早速、調査を命じたディアの元に報告に向かった。
「お役目、ご苦労様。そちらにかけなさい。報告を伺います」
「はい」
 勧められるままに椅子に腰掛けると、ディア自らの手でお茶を入れられる。
「ディア様、そんな……」
 女神の補佐役であり、天界では女神の次の力を持つと言われるディアのその行動にロザリアは恐縮する。だが、ディアは
手づくりと思しきケーキまで出してくる。
「ちょうど、お茶にしようと思っていたのですよ。つきあってくれると嬉しいのだけれども」
「は、はい」
 やんわりとしていながら、有無を言わせない口調であれば、従うしかない。それに出されたケーキはロザリアの好物である
シャルロット・ポワール。
「美味しいですわ」
「そう言ってもらえると、作り手としては嬉しいわね」
「ディア様の手作りですの?」
 才色兼備なだけでなく、家庭的な一面。ふと、クラヴィスの膝の上でイチゴのタルトを食べていたアンジェリークを思い出す。
ちょこんとお行儀よく座って、美味しそうに食べていた。ディアのこのケーキを食べさせたら、どんなに喜ぶだろうか。(もちろん、
ロザリアの膝の上に座らせ、ロザリアが食べさせるのである)
「ディア様、アンジェリークの件なのですが、人間界で見つかりました。生まれてから、ほとんど成長してないらしく、人間の赤ん
坊のような感じでした」
「それで、アンジェリークを連れ戻せたのですか?」
「いえ、人間の元にいて、暮らしているようです」
 嫌でも思い出してしまう。アンジェリークは自分たちのものだといわんばかりのあの人間たちを。
「人間界とこちらとでは時の流れがかなり違いますから、あの子は成長は難しいようね。可愛い盛りでしょう?」
「え、ええ」
 まるでロザリアの心境を見透かしているようなその言葉に、わずかにどきっとするが、実際、可愛いのだから、しょうがない。
「わかりました。女神に報告して、今後のことを検討しましょう。ロザリア、あなたは引き続き、アンジェリークの様子を見ていて
下さい」
「連れ戻さなくて、よろしいのですか?」
 ディアの意外な言葉にロザリアは驚く。きっとすぐに連れ戻す命令を下すだろうと思っていたのに。
「今、突然、連れ戻しても、混乱させてしまいます。それにアンジェリークを養ってくれる人間も納得しないでしょうしね。無理に
記憶を消したところで、心に空虚を生んでしまうのですよ」
 諭すようなその言葉にある程度は納得しようと思うのだ。ディアの慈悲深さにも感動しないわけではない。ただ、それがあの
闇を纏ったような青年はともかくとして、もう一人の一見温和そうでいて、そうではなさそうな人間にあてはまるのか。かなりの
疑問である。
「ロザリア」
「……。分かりました」
 穏やかでいながら、圧迫感のある声には従わざるを得ない。天使としての資質が高いとはいえ、生まれてそれほど立って
いない天使が口出しできる事ではないのかもしれない。
(でも、アンジェは絶対にこっちに連れてくるんだから)
 それでも、心の中で密かに決意をしている。いくらディアの言葉でも、これだけは譲れない。
「では、失礼いたします」
 恭しく礼をして、ロザリアが去って行くと、ディアは小さなベルを鳴らすと、小さな人の形をしたものが姿を現す。天界や人間
界の一部に住む“精霊”と呼ばれる存在である。ちなみにディアが呼び出したのは、“手紙の精霊”と呼ばれ、手紙や書類を
運ぶ役割を持っている。
「ロザリアの報告を今すぐにまとめますから、届けてくださいね」
ディアの言葉に精霊が頷くと、軽やかな手つきで羽ペンを便箋の上に滑らせ始めた。


 ディア様、さりげなく、怖い方かも……。

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