甘いお客

「佐伯くん、お疲れさま」
 思わず声をかけてしまう少女に瑛は遠い目になる。
「来る度にあれだし。俺だって慣れるさ。おまえ、あんなもんだと思うなよ?」
「?」
「見てれば、わかる」
 その言葉に首を傾げる少女に常連たちもまた遠い目になるのであった。
「美味しいね」
「ああ」
「ドレッシングがね、美味しいの。これなら、珪くんも大丈夫だと思うけど? 作ってみるね?」
「おまえの作るメシはうまいよ」
「でも、カイワレ残すじゃない」
「……」
「でもね、このサラダ、美味しいよ。一口食べて」
 フォークにさして、葉月の口元へ。葉月はそれをためらいなく口にする。
(うわぁ……)
 お互い、素でやっているのであろうことは聞こえてくる会話からわかるけれど。端から見ると、バカップル以外の何者でもない。
「美味しいでしょ?」
「ああ。そうだな……」
 にこにこと笑う彼女に淡々と答える葉月。
「佐伯くん、いつもああなの?」
 こっそりと瑛に尋ねてみると、やはり遠い目になる瑛である。
「葉月さん一人なら、そうじゃないけど、彼女さんが一緒だと、な……」
「……ラブラブなんだね」
 そう言う言葉一つで片づくような甘さではないと、つっこみを入れる気すらもない。
「ケーキも美味しい〜」
 リンゴのタルトを食べる彼女にチーズケーキをフォークに乗せて、彼女の口元に。
「珪くん?」
「さっきのお礼。ほら」
「うん」
 彼女ももはやためらいもない。幸福そうにケーキを口にして、こっちも美味しいねと無邪気に笑っている。
「……いいなぁ」
「おまえなぁ」
 その甘い空気に思わずつぶやいた彼女を呆れたように瑛がチョップを与える。
「痛い〜」
「おまえも毒されてどうするんだよ」
「え〜。でも、なんかさぁ、お互いが一番大事だって空気ってよくない?」
 夢見るような瞳でうっとりと呟く。
「ベターハーフですね。僕とさゆりもそうでした」
「マスター、さゆりさんって瑛くんのおばあさんですか?」
「ええ。そうですよ」
「すてきな人だったんでしょうね……。私も見つけられるといいなぁ……」
 夢見るように呟く少女に
「見つける前に仕事しろ、カピバラ」
と、再びチョップが落ちる。
「瑛くん、ひどーい」
「うるさい。今は仕事中だ」
 機嫌悪そうに答える瑛に抗議する少女。
「マスター、あれもある意味いい感じじゃないの?」
 昔から瑛を知る常連の一人がそう囁くと、
「僕もそうあってほしいと思うんだけどね。なんせ、瑛は素直じゃないからねぇ」
と、楽しそうにうなずいた。

これ、GS3設定(琉夏主)でも書きますw 瑛主は馬鹿ップルになりきれないんだねw 瑛はほら、素直じゃないしw
馬鹿ップルに当てられる不幸な瑛……。



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