甘いお客
珊瑚礁のテラスから見える海はどの時間帯も美しく。この店の常連たちはマスターの入れる美味しいコーヒーと海を 楽しみにきているといっても過言ではない。 「ブレンドワン」 「はい」 息のあった様子で働く孫とその同級生をマスターはにこやかに見守る。そんな忙しいけれど、満たされた時間を、今日は一人の客が来ることによって終わることとなった。 カラン、とドアの開く音と共に入ってくるのは金髪碧眼の長身の青年とふんわりとした雰囲気の女性。 「葉月さん、いらっしゃいませ。今日はおひとりで?」 「いや、二人で。大丈夫かな?」 「大丈夫です。席にご案内しますね」 そう言って、瑛が二人を席に案内すると、常連たちは示し合わせたように席の移動を始める。 「ど、どうしたんですか?」 まるで、当たり前のような常連たちの移動に戸惑う少女に常連客の一人は苦笑しながら笑う。 「いやぁ、当てられたくないし」 「?」 ますます首を傾げる少女にマスターはにこにこと話しかけた。 「お嬢さんは葉月珪さんをご存じですか?」 「そりゃあ。私だって知ってますよ」 はばたきウオッチャーの表紙を何度も飾った今をときめく人気モデルである。知らないはずがない。 「うちの店を撮影に使ってくださってから、時々きてくださるんですよ。時々、あのお嬢さんもご一緒に」 「恋人さん、ですよね? なんか、いいなぁ……」 見ているだけで、幸福そうな恋人たちイメージがわいてくる。美人と言うよりはかわいらしいという印象が強い。 「じゃあ、見ていればわかりますよ。あいたテーブルを拭いてきてもらえますか?」 「あ、はい」 常連客が移動したのは葉月とその彼女が案内されたテラスに近い席ばかり。少女は慌てて台拭きを手に移動した。 「今日はいかがなさいます? 葉月さんはモカですよね?」 「ああ。あと、ツナサンドも。お前も昼食べてないし、何か食うだろ?」 「うん。そうする。じゃあ、サラダと。珊瑚礁ブレンドと、ケーキもお願いします」 「今日のおすすめはチーズケーキとリンゴのタルトですが」 瑛の言葉に少しだけ困ったように笑う彼女。 「フフ、迷っちゃう」 「両方頼めばいい。俺が半分手伝ってやる」 「じゃあ、そうする」 葉月の言葉に嬉しそうに彼女は笑う。そこだけの空間がとても甘い。 (あ〜。なんか、常連さんが席移るのわかった気がした……) テーブルを拭いている手を止めずに、それらの会話を聞いていた少女は思わず瑛に同情する。あの甘い空気を前に接客するのは結構気を使うような気がする。 「ご注文、承りました」 そう言って、注文をマスターに伝えるあたり、やっぱり佐伯くんはすごいなぁ…と明後日な方向に感心するのであった。 |
もう、書き尽くされたネタかもですが。うん。書きたかったんだ。今、書きたいと思ったんだよ。
微妙に続きます。
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