白髪に白い一翼。穢れなき純粋な白。けれど、その白はすべてを破壊しつくして、無に返してしまうことから生まれる白のようにも見えた。名前は確か、エルダーといったことを思い出した。
(……どうして、ここにこいつが?!)
 フォンティーヌの一件が別の天使に知れたと言うことなのだろうか? 復讐のためにこの国を訪れたとでも。どちらにしても、今、現実を理解し、戦えるはずのカナンとセレストはこの国にいない。ましてや、魂だけの自分が何をできると言うのか。だが、そんなロイに対し、天使は口を開いた。
「……お前はずっとここにいたのか。死んでしまってからも、なお……」
「?」
 天使の真意がわからずに、ロイは身構える姿勢を崩さない。
「儚い命…けれど、綺麗な魂……。それはずっと、変わらないものなのか? 人間だけがそうなのか?」
 ロイに問いかけると言うよりは、自分自身で何かを確かめるかのように。
「お前は……? フォンティーヌを救いに来たのか? 残念だが、フォンティーヌは……」
「知ってる……。カナンとセレストが倒したのだろう?」
「……!」
 カナンとセレストの名前を出されたことにさらにロイは驚きを隠せない。
「この国は平和だな……。あの幻獣使いたちが作ったこの国であの二人は生まれたんだな……」
「二人を知ってるのか?」
「ああ、ヒライナガオの国で……。俺は記憶を失っていて、あの二人が世話を焼いてくれた……」
 少しばかり、天使の表情が柔らかくなった気がした。
「ああ……、そういえば……」
 サインをもらいに来た時、ヒライナガオでの冒険の話も少しばかり聞かせてもらった。記憶喪失の青年を拾ったとも言っていた。
「記憶をなくしていた頃の俺は、よく寝ていたからな……。この国に来たら、昼寝し放題だと言われていたから……。あいつらは本当に連れてきてくれるつもりだったらしい……」
 俺の正体も知らずに、と、自嘲気味に呟いて。
「だから、この国に来たのか?」
 カナンとセレストさえ黙っていれば、天使がこの国で過ごすことには問題がない。正体を知らないのなら、ロイが黙っていれば住むこと、だ。
「そういうわけにはいかない。ヒライナガオの一件は俺の覚醒ともう一人の天使、ロードライトの復活のために別の仲間が動いたことだったからな。俺は、結果的には仲間を裏切り、あの二人を助けることになった。俺がこの国にいたら、あの二人に迷惑がかかる……。けど、見てみたかったんだ……。カナンが誇りに思うこの国を……。
「カナンに言われたからじゃなくて、見てみたかったんだ……。お前達の魂の輝きがもたらしたこの国を……」
「……」
 ロイはただ息を飲むしか出来ない。目の前にいるのはかつて戦ったウルネリスの一翼。だが、彼が嘘をついているとは思えない。
「この国を見た感想はあるか?」
「いい国だな……。この国だったら、きっとよく眠れていただろうな……」
 淡々と答えるその姿にやはり偽りは感じない。複雑な顔をするロイにエルダーは柔らかな笑みを浮かべた。
「信じようが、信じるまいが構わない。この国を見たら、そのまま旅立つつもりだったんだ。あいつらが帰ってくる前に、この国を見たかっただけだ。他意はない。ここに来たのだって、懐かしい匂いがしたからだ……」
「匂い……?」
 封印されていたフォンティーヌの残り香のことだろうかと首を傾げるロイにエルダーは静かに言った。
「魂の匂い、か? カナンから感じた。あれはあの幻獣使いだけでなく、お前のものでもあったんだな……」
 そう言うと、エルダーはクルリとそのまま立ち去ろうとする。
「どこに行くんだ?」
「あいつらは、他の一翼は俺を許さない。元は一つだったが、俺はあいつらとはもう同じ道を歩けない……。俺がここにいることがあいつらに知れたら、この国に恨みを持つ連中だ。まして、カナンやセレストが狙われかねないからな……」
「……」
 ロイはただ息を飲むしか出来ない。目の前にいるのはかつて戦ったウルネリスの一翼。だが、彼が嘘をついているとは思えない。
「待て、エルダー!」
「?!」
 名を呼ばれた、エルダーは不思議そうな顔で振り返る。
「俺はすでに存在しない人間だ……。お前が見たのは幻だと思えばいい……。だから、見ていけばいい。あいつが作ったこの国を……。カナンが誇りに思うこの国を……」
 その言葉にエルダーは少しだけ驚いたような顔をして、ふわりと笑った。
「ありがとう……」
 その言葉に複雑な思いがしないわけでもない。けれど、このまま彼を行かせてしまったら、後悔すると思った。ただ、それだけだった。

私、エルカナも好きなんですけど、エル→ルーも好きです。だって、魂の輝きをルー様に感じて、その面影をカナンにって、
私的に萌え〜なのでvvv

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